このページの要点
- 解除に関する事項への不実告知と威迫は、訪問販売6条、電話勧誘販売21条、特定継続的役務提供44条で禁止され、違反は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(70条1号)。
- 妨害で誤認・困惑して期間内に行使しなかった人は、事業者が所定の書面を交付して受領した日から8日を経過するまで、クーリング・オフができる(9条1項ただし書など)。
- 再交付の書面は規則22条・66条・109条の記載事項と方式で作り、交付直後に書面を見ていることを確認して赤枠の内容を告げる。これを欠くと期間は続くと解説されている。
- 『事業主として見ている』『返金しない』のような一括の断りを避け、申出を受け付けて契約の実態を確認し、記録を残す運用にする。
結論:解除を妨げる告知は罰則つきの禁止行為で、妨げた分だけ期間が延びる
クーリング・オフの相談を受けた担当者が「事業主として見ているので対象外です」「お支払い済みの分は返金できません」と答える場面は、講座やスクール、サロンの運営で珍しくありません。この一言が事実と合っていないとき、特定商取引法(以下「特商法」)は、契約を勧誘するときの不実告知とは別に、申込みの撤回や解除を妨げるための不実告知と、解除を妨げるために人を威迫して困惑させる行為を禁止しています。条文は、訪問販売が6条、電話勧誘販売が21条、特定継続的役務提供が44条です。
もう一つの効果は、期間の側に出ます。クーリング・オフができる期間は、法定の書面を受け取った日から数えて8日が原則です。ところが、事業者の不実告知や威迫によって購入者が誤認または困惑し、期間内に行使できなかったときは、事業者が「クーリング・オフができる旨を記載した書面」を所定の方法で交付し、購入者がそれを受け取った日から8日を経過するまで、行使できる期間が延びます(9条1項ただし書、24条1項ただし書、48条1項のかっこ書)。担当者の一言が、契約から何か月たっても解除を受ける状態をつくることがあるわけです。
- 禁止されているのは、解除に関する事項(クーリング・オフや中途解約、返金の取扱い)について事実と違うことを告げる行為と、解除を妨げるために威迫して困惑させる行為です。
- 違反には、70条1号により、3年以下の拘禁刑、300万円以下の罰金、またはその両方が定められています。法人は従業者の行為についても1億円以下の罰金刑の対象になります(74条)。
- 妨害を受けて期間内に行使しなかった購入者は、事業者が規則で決まった書面(訪問販売は規則22条、電話勧誘販売は規則66条、特定継続的役務提供は規則109条)を交付してから8日を経過するまで、クーリング・オフができます。
- 再交付の書面は、交付した直後に購入者が書面を見ていることを確認し、赤枠の中の内容を口頭で告げる手順までが一組です。書面を渡しただけでは足りないと逐条解説は説明しています。
- 防ぎ方の中心は、解約の相談を受け付ける窓口の決め方と、「対象外です」と答える前に確認する項目を決めておく運用です。
このページは、禁止される行為の条文、期間が延びる仕組みと再交付書面の中身、避けるべき言い方と整えた言い方、社内のルール、処分と罰則の順に整理します。書面そのものに不備がある場合の効果は書面に不備があるときの期間、通常の数え方は8日・20日の数え方で扱います。
禁止される行為を条文で見る:不実告知・威迫・故意の不告知
解除を妨げる行為は、一つの条文に集まっているわけではありません。類型ごとに、禁止の条文、指示や業務停止命令の根拠、期間が延びる根拠が分かれています。次の表で、訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供の対応を並べます。講座やコーチングは、勧誘が通話なら電話勧誘販売、会場での当日申込みなら訪問販売、期間と金額によっては特定継続的役務提供と、導線ごとに異なる条文が働きます(取引の見分け方)。
解除を妨げる行為と期間延長の条文(類型別)
| 内容 | 訪問販売 | 電話勧誘販売 | 特定継続的役務提供 | ねらい |
|---|---|---|---|---|
| 解除に関する事項への不実告知 | 6条1項(5号) | 21条1項(5号) | 44条1項(6号) | クーリング・オフや中途解約について事実と違うことを告げない |
| 威迫して困惑させる行為 | 6条3項 | 21条3項 | 44条3項 | 解除を妨げるために人を威迫して困惑させない |
| 勧誘時の故意の不告知 | 6条2項 | 21条2項 | 44条2項 | 重要な事項を故意に告げないことを禁止(勧誘に際して) |
| 解除を妨げるための重要事項の故意の不告知 | 7条1項3号 | 22条1項3号 | 46条1項3号 | 罰則ではなく、指示や業務停止命令の対象 |
| 期間が延びる根拠 | 9条1項ただし書 | 24条1項ただし書 | 48条1項(かっこ書) | 妨害を受けた人は再交付書面の受領日から8日まで |
| 再交付する書面の記載事項 | 規則22条 | 規則66条 | 規則109条 | 記載事項・8ポイント以上・赤枠赤字・様式・交付時の告知 |
6条1項5号、21条1項5号は『申込みの撤回又は解除に関する事項』、44条1項6号は『特定継続的役務提供等契約の解除に関する事項』です。条文は2026年10月22日時点の現行版で確認しています。
表の一行目に注意してください。不実告知の禁止は、価格や効果などの事項(1号から7号)について、契約を勧誘するときと、解除を妨げるときの両方に及びます。ただし、期間が延びる効果が生じるのは、このうち解除に関する事項につき不実のことを告げた場合と、威迫した場合です。商品の性能について事実と違う説明をしていた場合は、不実告知としては禁止の対象ですが、それだけで期間延長の効果が生じるわけではありません。両者を混同して「性能の説明を誤ったから期間が延びる」と書いたり、逆に「解除の話ではないから関係ない」と考えたりすると、判断を誤ります。
逐条解説は、「申込みの撤回若しくは解除を妨げるため」の例として、9条のクーリング・オフの行使を妨げる行為を挙げています。また、施設の利用権の取引を例に、中途解約の制度がないのに「いつでも解約できる」と説明することも、不実告知にあたりうるとしています。クーリング・オフの話に限らず、中途解約や返金の取扱いについて事実と違う説明をすることも、同じ条文の射程に入ると考えておくのが安全です。
威迫については、同じ解説が、脅迫とまではいえなくても相手に不安を生じさせる行為だと説明しています。例として、クーリング・オフを申し出ようと連絡した人に対して、残金を払わなければ今の住まいに住めなくなる、という趣旨のことを告げて不安にさせ、行使を思いとどまらせる行為が挙げられています。実務では、ここまで露骨でなくても、解約の申出に対して支払の催促を繰り返す、強い口調で連絡を重ねる、将来の利用や紹介の関係に不利益が及ぶと示唆するなど、思いとどまらせる効果を狙った言い方が、威迫と評価される余地があります。どこからが威迫かは行為の状況全体で判断されるため、個々の言い回しの線引きを決めるより、解約の申出に対して脅しや催促で応じない運用を最初から決めておくほうが確実です。
期間が延びる仕組み:妨害を受けた人は、再交付書面から8日まで
期間の延長は、条文の組み立てを順に見ると理解しやすくなります。9条1項の本文は、購入者が書面(4条または5条の書面)を受領した日から数えて8日を経過するまで、書面または電磁的記録でクーリング・オフを行えるとします。ただし書は、8日を経過した場合には行えないとしたうえで、かっこ書で例外を置いています。事業者が6条1項に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げ、購入者がそれを事実と誤認した、または事業者が6条3項に違反して威迫し、購入者が困惑した。そのために期間内に行使しなかったときは、事業者が主務省令に従って作り、クーリング・オフができることを記載して渡した書面を購入者が受け取り、その日から8日が過ぎるまでは、行使できる、という形です。
この例外には、三つの要素が含まれています。第一に、解除に関する事項への不実告知または威迫があること。第二に、それによって購入者が誤認または困惑したこと。第三に、その結果として期間内に行使しなかったこと。つまり、事業者の言動と、行使しなかったことの間に因果関係が必要です。クーリング・オフの意思がそもそもなかった人まで期間が延びるわけではありません。一方で、因果関係の有無は事業者の側から証明しにくく、購入者が「そう言われたので諦めた」と述べたとき、事業者が反証できる記録を持っていることは少ないのが実情です。
期間が延びているかの確認の順番
- 1
法定書面は適法に交付され、受領日を含めて8日以内ですか。
はい通常のクーリング・オフが可能な期間内。8日が過ぎるまで受け付ける。
いいえ次の問いへ
- 2
書面の不交付や、クーリング・オフに関する事項の欠落など、書面に重要な不備がありますか。
はい8日の起算日が到来せず、期間は続く。書面の出し直しが先の課題(書面の不備のページで扱う)。
いいえ次の問いへ
- 3
8日の間に、解除に関する事項への不実告知または威迫があり、そのために購入者が誤認・困惑して行使しなかったと認められますか。
はい期間は延びる。再交付書面の手順へ進む。
いいえ通常の期間が経過している。ただし、因果関係の有無は個別に確認する。
- 4
規則22条・66条・109条の書面を交付し、直ちに書面を見ていることを確認して、赤枠の内容を告げましたか。
はい書面を受領した日から8日を経過するまで行使でき、経過すれば行使できなくなる。
いいえ手順が完了していない。8日を経過しても、購入者は依然として行使できると逐条解説は説明している。
日数は書面を受領した日を含めて数えます。再交付書面の受領日を1日目として数える点も、通常の数え方と同じです。
特定継続的役務提供も、組み立ては同じです。48条1項のかっこ書が、解除に関する事項への不実告知または威迫があったときの再交付書面を予定しています。さらに、クーリング・オフ期間の経過後に使える中途解約(49条1項)についても、同じ構造のかっこ書があり、中途解約が使える時期は再交付書面を受領した日から8日を経過した後となります。中途解約の上限の考え方は中途解約と上限で扱います。
逐条解説は、この例外の考え方を次のように説明しています。違法な妨害を受けてクーリング・オフを諦めた人が救済されないのは妥当でないので、いつでもクーリング・オフできることにした。ただし、法律関係の安定にも配慮して、事業者が所定の書面でクーリング・オフができることをあらためて知らせ、それから8日が過ぎれば行使できなくなる、という区切りを設けた。つまり、再交付書面は、事業者が不確定な状態を終わらせるために用意された手段です。妨害があったと分かった時点で、何もせず時間の経過を待つのは、不確定な状態をそのまま抱え続けることを意味します。
再交付する書面の中身と渡し方:規則22条・66条・109条
再交付の書面は、自由な書式で作れるものではありません。記載事項、文字の大きさ、赤枠、様式、交付のしかたまで、規則が決めています。訪問販売は規則22条、電話勧誘販売は規則66条、特定継続的役務提供は規則109条です。書面の見出しは、「契約の申込みの撤回等の妨害後の書面の交付」「特定継続的役務提供契約の解除の妨害後の書面の交付」となっています。
再交付する書面の要点(規則の定め)
| 項目 | 訪問販売(規則22条) | 電話勧誘販売(規則66条) | 特定継続的役務提供(規則109条) |
|---|---|---|---|
| 対価の記載 | 商品・権利の販売価格または役務の対価 | 同左 | 役務の対価または権利の販売価格その他の支払う金銭の額 |
| 8日の旨 | 書面を受領した日から8日を経過するまで書面または電磁的記録で撤回・解除できること | 同左 | 同左(特定継続的役務提供等契約の解除等) |
| 効果の規定 | 9条2項から7項までに関する事項 | 24条2項から7項までに関する事項 | 48条2項から7項までに関する事項 |
| 代金の返還 | 売買契約の撤回・解除で代金が支払済みなら、速やかに全額を返還する旨 | 同左 | (効果の規定に含めて記載) |
| 事業者・担当者・日付 | 事業者の氏名または名称・住所・電話番号、法人は代表者の氏名、担当者の氏名、申込みまたは締結の年月日 | 同左 | 同左(関連商品の販売者の情報を含む) |
| 商品の特定 | 商品名と商標または製造者名、型式または種類、数量 | 同左 | 契約の内容と関連商品の商品名 |
| 赤枠・赤字 | 8日の旨・効果の規定・全額返還の部分を赤枠の中に赤字(3項) | 同左 | 8日の旨・効果の規定の部分を赤枠の中に赤字(3項) |
| 文字の大きさ | 日本産業規格Z8305の8ポイント以上(2項) | 同左 | 同左 |
| 様式・交付時の告知 | 様式第一(4項)。交付した直後に書面を見ていることを確認し、赤枠の内容を告げる(5項) | 同左(様式第一) | 様式第三(4項)。同じ確認と告知(5項) |
規則22条・66条・109条の項目を要約した表です。実際の書面は、規則の様式(様式第一、様式第三)に沿って作ります。
表の最後の行が、実務で最も落ちやすい部分です。規則22条5項などは、書面を交付した際に、直ちに購入者が書面を見ていることを確認したうえで、赤枠の中に記載した内容を購入者に告げなければならないとしています。逐条解説は、その趣旨を次のように説明しています。一度、不実告知や威迫を受けた人は、クーリング・オフはできないと思い込んでいることが多く、「これから8日経過するまではクーリング・オフできる」と書いた書面をただ渡されただけでは、十分な救済にならない。だから口頭の告知まで義務としたのだ、と。そして、そのように交付されなかった場合は、交付から8日を経過しても、購入者は依然としてクーリング・オフできるとします。
この確認と告知は、郵送やメール添付の交付と相性がよくありません。購入者が書面を見ているかを確認し、口頭で内容を告げるという流れは、対面や通話の場面を想定した作りです。再交付書面を郵便やメールで送る運用を考える場合は、規則の定めの文言と所管官庁の資料に照らして、確認と告知をどの方法で実現するかを、実施の前に整理しておく必要があります。この点について、本ページでは電子的な交付の可否を断定しません。
書面を作る段階で、もう一つ注意しておくことがあります。再交付書面は、契約ごとの内容(対価、担当者、契約年月日、商品名)を記載する書面です。妨害があったと分かった契約について、その契約の内容を入れて個別に作成します。同じ文面を使い回して、内容の入っていない書面を渡す運用は避けます。記載事項の中身は上の表のとおりで、契約書面の記載事項(契約書面・概要書面の記載事項)と重なる項目が多く、赤枠・赤字・8ポイントの方式は赤枠の書き方と共通です。
契約書の条項:期間と妨害があった場合の取扱い
- 購入者は、乙(事業者)から契約書面を受領した日を1日目として数え、8日目が終わるまでの間、書面又は電磁的記録により、本契約の申込みの撤回又は解除をすることができる。
- 乙が、前項の撤回又は解除に関する事項につき不実のことを告げ、又は購入者を威迫して困惑させたことにより、購入者が前項の期間内に撤回又は解除を行わなかったときは、購入者は、乙が法令に従い、撤回又は解除ができることを記載した書面を交付し、購入者がこれを受領した日を1日目として数えて8日目が終わるまでの間、前項の撤回又は解除をすることができる。
- 前二項の撤回又は解除は、書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
法令の定めを契約書に写す形の条項です。購入者に不利になる書き方(契約日からの起算、到達した時の効力、妨害後の再起算を置かない書き方)は、消費者に不利な特約として無効になるおそれがあります(9条8項、24条8項、48条8項)。
避けたい言い方と、整えた言い方
公表されている行政処分には、解除を妨げる言い方の型が現れています。処分を受けた事業者名はここに書きません。違反の型だけを整理します。
消費者庁が2025年1月23日に公表した電話勧誘販売の処分では、通話による勧誘から契約に至った商品・役務について、解約の申出を受けた事業者が、クーリング・オフができる契約であるにもかかわらず、事業主として扱っているのでクーリング・オフは問題にならない、支払済みの金銭は一切返さない、と告げた、と認定されています。また、違約金なしで解約するには別の書面(秘密保持契約書と称する解約合意書)に署名が必要であるかのように告げ、既に支払った金銭の返還を免除する内容を含む書面への電子署名を求めた、とされています。これらは21条1項の違反と認定され、あわせて氏名等の明示義務(16条)と書面の交付義務(19条1項)の違反も認定されて、業務停止命令(3か月)が出されています。
消費者庁が2026年1月30日に公表した特定継続的役務提供の処分では、体型を整える施術の契約に付随して販売された定期購入の商品について、役務の契約をクーリング・オフ等すれば商品の売買契約も解除できるのに、契約の勧誘の際に、商品の契約はクーリング・オフができないこと、定期購入は通信販売なので契約回数が終わるまで解約できないことを告げた、と認定されています。これは44条1項の違反で、あわせて断った相手に執ように勧誘した行為も認定され、業務停止命令(3か月)が出されています。
二つの事例は、妨害の現れ方が一つではないことを示しています。前者は解約の申出を受けたあとの返答、後者は契約を勧誘する段階での説明です。解除に関する事項についての不実告知は、どちらの場面でも禁止の対象になり、そのために購入者が行使しなかったときは期間の延長にもつながります。これらの公表資料から、解除を妨げる言い方の型が見えてきます。次の表では、型ごとに、一般的な「よくある書き方」と、確認を先にする「整えた書き方」を対比します。具体的な営業の台本ではなく、窓口で使う文の方向を示す例です。
書き方の例(一般的な例) 解約の相談を受けたときの言い方
事業者名義・副業を理由にした断定
理由営業のための契約かどうかは、名義だけでなく契約の目的や実態を総合して判断すると、逐条解説は説明しています。窓口で即答できる判断ではありません(事業者間契約の除外)。
通信販売扱いにする断定
理由取引の類型は、販売の呼び方ではなく実態で決まります。特定継続的役務提供なら、契約期間中の中途解約を認めない定めは無効です(49条1項、7項)。
一律の返金拒否
理由クーリング・オフでは、提供済みの役務の対価も請求できず、役務に関連して受領した金銭は速やかに返還します(9条5項・6項、24条5項・6項、48条6項・7項)。
別の書面への署名を条件にする
理由返金の免除を含む別の書面への署名を条件にすることは、別の契約が必要であるかのように告げる行為として、処分の理由に挙げられています。
関連商品を除外する断定
理由役務の契約の解除に伴い関連商品の売買契約も解除の対象になります(48条2項)。関連商品か推奨品かは、説明の内容と役務との関連性で実質的に判断されます(解除後の清算)。
期間経過の断定
理由起算日は契約日ではなく、法定書面を受領した日です。書面に不備があれば、起算日が到来していないことがあります(書面の不備)。
威迫に当たりうる言い方も、避ける対象に入れておく必要があります。解約の申出に対して、支払の催促や法的措置を示唆する連絡を重ねる、解約すれば紹介や他の購入者との関係で不利益が及ぶかのように伝える、解約を撤回するまで連絡を続ける。こうした対応は、解除を思いとどまらせる効果を狙ったものと評価されるおそれがあります。解約の申出の後に、未払金の請求を行うこと自体が許されなくなるわけではありませんが、クーリング・オフの対象になりうる契約では、請求の前に、クーリング・オフが成立するかを確認する手順を置く必要があります。
社内のルール:窓口を決め、確認の項目と記録を残す
妨害を防ぐ運用は、担当者の注意力に任せるのではなく、仕組みで作ります。実務でよく見られる失敗は、営業担当者が解約の相談の窓口を兼ねていて、契約を維持したい動機から断定的な言い方に傾く場面です。解約を受け付ける窓口と、勧誘する担当を分けておくだけでも、リスクはかなり下がります。
次に、「対象外です」「期間が過ぎています」と答える前に確認する項目を、一覧にしておきます。確認の項目は、勧誘を受けた場所、勧誘や申込みの手段、法定書面を交付した日と交付方法、書面の記載内容、役務の種類と期間と総額、関連商品の有無、購入者の名義と契約の目的です。この項目が揃っていなければ、断定的な返答をしないというルールは、一覧に基づいて機械的に運用できます。通知の受付そのものの設計はメール・LINEなどでの通知、受領後の動きは通知を受け取ったときの対応で扱います。
解約の相談を受ける窓口のチェック項目
- 解約・返金の相談を受ける窓口を、勧誘を担当した人と分けて決めている。
- 『できません』『対象外です』『期間が過ぎています』と答える前に確認する項目を、一覧にしている。
- 避ける言い方の一覧(上の対比表の型)を、窓口の研修資料に載せている。
- 申出を受けた日時、受けた手段、申出の内容、対応した担当者を、後から確認できる形で記録している。
- 返金や手続の条件として、別の書面への署名を求めていない。
- 解約の申出の後に、支払の催促や不利益の示唆を行わない運用にしている。
- 委託先、代理店、チャットサポートの窓口にも、禁止する言い方を伝えている。
- 過去の対応の中に、解除を妨げると評価されうる断り方があったと分かった場合の対応手順(再交付書面を含む)を決めている。
確かめる問いと理由ヒヤリングで確かめること
解約・返金の相談は、最初に誰が受けますか。
勧誘を担当した人が窓口を兼ねていると、契約を維持したい動機から断定的な返答に傾きやすいためです。窓口を分けられるか、分けられないなら二重の確認をどこに置くかを決めます。
『対象外です』と答える前に、何を確認するルールですか。
名義、勧誘の場所と手段、書面の交付日、役務の期間と金額などの確認が済む前に断定すると、不実告知になるおそれがあります。確認の項目と順番を文書にします。
法定書面の交付日と交付方法を、契約ごとに記録していますか。
期間が延びているかどうかの判断は、書面を受領した日が分からなければできません。記録の項目はチェックリストと記録の残し方と合わせます。
過去の解約の相談への返答の記録は残っていますか。
過去に解除を妨げる返答をしていた契約は、期間が続いている可能性があります。件数と内容を洗い出すと、再交付書面を出す対象が分かります。
委託先や代理店が勧誘・窓口を担当していますか。
従業者の行為は、法人が罰金刑の対象になる場合があります(74条)。委託先の言動は事業者の責任として問われるため、禁止事項を委託の条件として伝えます。
処分と罰則、民事の取消しとの関係
解除を妨げる行為への制裁は、刑事罰と行政処分に分かれます。刑事罰の面では、6条・21条・44条に違反すると、70条1号に基づき、3年以下の拘禁刑と300万円以下の罰金のいずれか、または両方が科されます。従業者が業務の中で違反した場合は、本人が処罰されるだけでなく、会社などの法人にも1億円以下の罰金刑が科されます(74条1項2号)。
行政処分は、主務大臣による指示(7条、22条、46条)、2年以内の期間を限った業務停止命令(8条、23条、47条)、役員等への業務禁止(8条の2、23条の2、47条の2)に分かれます。業務停止命令や指示をしたときは、その旨が公表されます。2025年1月の電話勧誘販売の処分、2026年1月の特定継続的役務提供の処分のいずれも、業務停止の対象は勧誘、申込受付、契約締結で、期間は3か月、代表者への業務禁止もあわせて命じられています。処分の読み方は行政処分の公表事例で整理しています。
民事の面では、消費者契約法にも取消しの制度があります。事業者が重要事項について事実と異なることを告げて誤認させた場合の取消し(4条1項1号)や、困惑させる行為による取消し(4条3項)が定められています。これらは、特商法の禁止行為や期間延長とは別の制度で、要件も効果も異なります。同じ言動が、特商法の禁止行為にも、消費者契約法の取消しの原因にも当たることがあります。解除を妨げる行為への対応は、特商法の期間の面と、返金の面と、取消しの面の三つを分けて点検する必要があります。表示と規約の食い違いの点検は、広告・申込み画面・規約・特商法表記で解約条件をそろえるで、高齢者向けのサービスにおける説明と取消しは勧誘と説明のしかたで、それぞれ扱っています。処分に至るまでの流れと修正の手順は、特商法表記の不備が指摘されたときが参考になります。
サービスの種類によって、解約の申出の後に問題になる場面は変わります。介護や福祉のサービスのように、利用の停止や提供の拒否が利用者の生活に直結する分野では、事業者の側からの解除や提供拒否の扱いが別に整理されています(介護・福祉サービスの契約解除・利用停止・提供拒否)。
起きがちなこと
解除を妨げる行為で起きがちなこと
- 解約の相談に、法定の書面の内容を確認しないまま『対象外です』と答え、後から書面の不備が分かって、期間が続いていたことになる。
- 『事業主として見ている』の一言で断ったが、実際には副業や開業前の個人の購入で、営業のための契約に当たるかを総合判断すべき場面だった。
- 返金を断るだけでなく、別の書面への署名を条件にして、不実告知として処分の理由に挙げられる。
- 関連商品を『別の契約』『通信販売』として説明し、役務のクーリング・オフに伴う解除の対象を狭く告げる。
- 解約の申出の後に、支払の催促を重ねて、威迫と評価されうる状況をつくる。
- 妨害があったと分かったあとも、再交付書面を出さずに時間の経過を待ち、いつまでも解除を受ける状態が続く。
- 再交付書面を郵送しただけで、書面を見ていることの確認と、赤枠の内容の告知を行わない。
- 従業者や委託先の担当者の発言に、禁止事項が伝わっておらず、法人の責任として問われる。
この記事の出典
- e-Gov法令検索:特定商取引に関する法律(6条、7条、8条、9条、21条、22条、23条、24条、44条、46条、47条、48条、49条、70条、74条)、同法施行規則(22条、66条、109条)、消費者契約法(4条)(確認日:2026年10月22日)
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」逐条解説(訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供)、Q&A「特定継続的役務提供」(確認日:2026年10月22日)
- 2025年1月23日付で消費者庁が公表した電話勧誘販売業者への行政処分、2026年1月30日付の特定継続的役務提供業者への行政処分(いずれも公表資料。確認日:2026年10月22日)
よくあるご質問
解約の相談に『返金できません』と答えただけで、不実告知になりますか。
答えた内容が、返金やクーリング・オフに関する事実と違っていれば、解除に関する事項への不実告知にあたりえます。契約が営業のための契約として適用除外になる実態なら、対象外と説明すること自体は事実に沿います。ただし、その判断は名義だけでなく契約の目的や実態を総合して行うため、確認の前に断定する対応は避けるのが安全です(確認日:2026年10月22日、特定商取引法6条・21条・44条、消費者庁逐条解説)。
期間が延びた場合、いつまでクーリング・オフを受けることになりますか。
事業者が規則で決まった書面を交付し、直ちに書面を見ていることを確認して赤枠の内容を告げたうえで、購入者がその書面を受領した日から8日を経過するまでです。この手順が完了していなければ、8日を経過しても購入者は行使できると、逐条解説は説明しています。書面の受領日を含めて数える点は通常の期間と同じです(確認日:2026年10月22日、規則22条・66条・109条)。
契約から何か月もたった契約にも、再交付書面を出す必要がありますか。
解除を妨げる言動があり、そのために購入者が期間内に行使できなかったと認められる契約が対象です。言動の有無や因果関係の判断は個々の事情によります。一方で、そもそも法定書面に不備があれば、起算日が到来しておらず、別に書面を出し直す必要があります。二つの問題を分けて点検してください(確認日:2026年10月22日)。
違反した場合の罰則や処分は、どの程度ですか。
不実告知と威迫には、3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金(両方を科されることもある)が定められ、法人は従業者の行為について1億円以下の罰金刑の対象になります。行政処分は、指示、2年以内の業務停止命令、役員等への業務禁止があり、処分をしたときは公表されます。公表された事例では、業務停止は3か月でした(確認日:2026年10月22日、70条・74条・8条・23条・47条)。
消費者契約法の取消しと、特商法の期間延長は同じものですか。
別の制度です。消費者契約法4条は、勧誘のときの不実告知や困惑させる行為により契約を取り消せる制度で、特商法の期間延長は、解除を妨げられた人のクーリング・オフ期間に関する制度です。同じ言動が両方に関係することはありますが、要件と効果は別に点検します(確認日:2026年10月22日)。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、勧誘された場所や手段、申込みの方法、役務の内容と期間・金額、購入者の属性によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月22日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 国民生活センター / 裁判所