このページの要点
- 26条1項1号・50条1項1号は「営業のために(又は)営業として」締結する契約が対象で、事業者名義・法人であることだけでは一律に除外されません。
- 利益活動の意思があるだけでは足りず、取引の種類、目的との関連性、設備の準備などから、取引に習熟しているかが総合的に見られます。
- 副業・開業準備中の買い手を含む場合は、除外を前提にせず、類型に応じた書面と赤枠を最初から整えるほうが崩れにくい設計です。
- 消費者契約法2条1項の「消費者」は特商法の除外とは別に判断されます。返金・解約条項の点検も別に行います。
結論:「事業者向け」と書いても、それだけでは除外にならない
講座やスクール、会員制のサービスを個人事業主や副業の人に向けて売る場合、「事業のための契約だから、クーリング・オフはない」と整理したくなる場面があります。結論から言うと、この整理は条文の読み方として足りません。特定商取引法(以下「特商法」)が除外しているのは、「営業のために若しくは営業として締結する契約」であり、買い手の肩書や名義、あるいは規約に書かれた対象者の限定ではありません。除外に当たるかどうかは、契約の目的と内容から総合的に判断される、というのが消費者庁の逐条解説の考え方です。
この記事の要点は三つです。
- 除外は、契約の目的・内容で判断されます。個人事業主や法人という名義だけでは、一律には決まりません。
- 副業をしている人、開業の準備中の人が買う場合は、事業の実態や取引への習熟の程度によって結論が分かれうるため、除外を前提に書面や運用を組むのは危うい設計です。
- 除外が使える見込みがあるかどうかとは別に、使えない可能性が残る層には、法定書面・赤枠・通知の受付窓口を最初から用意しておくほうが、後から崩れにくくなります。
この記事は、条文と消費者庁の逐条解説(令和7年6月1日時点版)の考え方を整理したものです。26条1項1号の「営業のために若しくは営業として」の意味を直接に判断した裁判例は、今回の調査では確認できていません。そのため、裁判例の結論としてではなく、解説の考え方として読んでください。
「個人事業主向けの講座だから対象外」「事業者間契約だから解約できない」という言い方は、規約の文面だけでなく、営業の場面でも口にされがちです。後で述べるとおり、この言い方そのものが、解除を妨げる行為として問題にされた公表事例もあります。まず条文の置き場所から確認します。
条文の置き場所:26条1項1号と50条1項1号
営業のための契約を除外する規定は、取引の類型ごとに置かれています。ここでは、事業者が個人向けに講座やサービスを売るときに関係しやすい二つを取り上げます。
一つ目は、26条1項1号です。同項は、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売に関する節(逐条解説は「第2節から第4節まで」と表現しています)の規定について、一定の販売や役務の提供には適用しないと定め、その1号が、申込みをした者や購入者・役務の提供を受ける者が営業のために若しくは営業として締結する契約に係る販売・役務の提供を挙げています。この除外が認められると、書面の交付義務やクーリング・オフ(訪問販売は9条、電話勧誘販売は24条)だけでなく、通信販売の広告に関する規定を含む、これらの節の規定がまとめて適用されなくなります。
二つ目は、50条1項1号です。特定継続的役務提供(エステ、語学教室、学習塾などの指定された役務。7業種の整理は特定継続的役務提供の7業種と期間・金額の要件を参照)の章について、特定継続的役務提供受領者等が営業のために又は営業として締結するものに係る提供には、その章の規定を適用しないと定めています。文言は26条の「若しくは」と異なり「又は」ですが、趣旨は同じ方向のものとして読まれています。ただし、50条側の逐条解説は、事業・職務の用に供する場合は通常この号に該当する、という短い説明にとどまっており、26条側の解説にある詳しい判断の枠組みは、同じ形では書かれていません。50条1項1号の判断でも、26条の解説の考え方を参考にするのが自然ですが、その点は断定しないでおくのが正確です。
営業のための契約の除外規定(取引類型別)
| 取引類型 | 除外の規定 | 外れる範囲 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| 訪問販売・通信販売・電話勧誘販売 | 特商法26条1項1号 | 該当する節の規定(書面の交付、勧誘のルール、クーリング・オフ、通信販売の広告規制など) | 「営業のために若しくは営業として」。逐条解説に詳しい判断の枠組みがある |
| 特定継続的役務提供 | 特商法50条1項1号 | その章の規定(概要書面・契約書面、クーリング・オフ、中途解約など) | 文言は「営業のために又は営業として」。解説の説明は短い |
| 上記以外の取引類型 | それぞれの章に別の定め | 各章の規定 | この記事では扱わない。取引類型の見分け方は別の記事で整理している |
条番号と文言は e-Gov 法令検索(2026年10月22日時点の条文)で確認した内容です。
なお、26条には、取引の性質に着目した別の除外(たとえば3項から5項)もあります。これは「誰が買うか」ではなく「何を買うか」で決まる除外で、本記事の対象とは別の話です。赤枠に書くべき内容との関係はクーリング・オフの赤枠の書き方で触れています。
判定の順番としては、営業のための契約の除外を、取引類型の判定よりも先に確かめるのが整理しやすい方法です。除外に当たるなら、その先の類型ごとの書面の議論に進む必要がありません。逆に、除外に当たらないかもしれない層が一部でも含まれるなら、その層には類型の判定と書面の設計が必要になります。全体の順番はクーリング・オフが使える取引の見分け方と判定の順番にまとめています。
また、「営業のために若しくは営業として」は、商行為に限られるわけではないとされています。会社の事業に使うために買う場合に限らず、職務の用に供するために役務の提供を受ける場合も、通常はこの号に当たると説明されています。一方で、後で見るように、「事業者だから」という属性は、それだけでは決め手になりません。
逐条解説の読み方:属性ではなく目的・実態で見る
26条1項1号について、消費者庁の逐条解説は、おおむね次のような考え方を示しています(要旨を言い換えたものです)。
- この号の趣旨は、契約の目的・内容が営業のためのものである場合に規定を適用しない、というものです。契約の相手方が事業者や法人であれば一律に除外する、という趣旨ではありません。
- たとえば、事業者名で契約していても、購入した商品や役務が事業用というより主に個人用・家庭用であれば、原則として規定は適用されます。
- 実質的に廃業している、事業の実態がほとんどない、といった零細な事業者の場合は、規定が適用される可能性が高いとされています。
- 買い手に金を稼ぐなどの利益活動をする意思があっても、そのことだけで直ちに「営業のために若しくは営業として」に当たるとは解されません。
- 当たるかどうかは、取引の種類、買い手が行おうとする利益活動との関連性や目的、その利益活動に必要な設備等の準備の状況などを踏まえ、買い手がその取引に習熟していると認められるかどうかを総合的に検討する、という整理です。
- 例として、利益活動をする意思のある人が情報商材を買う場面が挙げられています。購入しようとする情報商材の内容が一般的とはいえない、行おうとする利益活動が社会通念上事業の遂行とみられる程度の地位に達していない、利益活動に必要な設備等を準備していない、といった事情から、取引に習熟しているとは認められないなら、除外には当たらないと考えられる、という説明です。
この考え方を、申込みの現場で使える問いの順番に直すと、次の図のようになります。これは条文の文言そのものではなく、解説の考え方を実務の確認順に並べたもので、どの問いも「はい」「いいえ」の一言で結論が出るわけではありません。除外の可否は総合判断であり、一つの問いで決まるものではないことに注意してください。
営業のための契約かどうかを見る問いの順番
- 1
買われる商品・役務は、主として事業や職務に使うためのものか
はい除外に当たる方向。ただし次の問いで実態を確かめる
いいえ主として個人用・家庭用なら、原則として規定が適用される方向。ここで止めて書面を整える
- 2
名義は事業者でも、実質的に事業の実態があるか(廃業状態や、ほとんど事業をしていない零細な状態ではないか)
はい次の問いへ
いいえ適用される可能性が高い方向。除外を前提にしない
- 3
買い手は、金を稼ぐ意思があるだけでなく、その取引に必要な設備・準備を整え、事業の遂行とみられる地位を持っているか
はい次の問いへ
いいえ意思だけでは足りない。習熟しているとは認めにくい方向
- 4
取引の種類と、買い手の利益活動との関連性・目的から見て、買い手はこの種の取引に習熟していると認められるか
はい除外に当たる方向。ただし根拠となる事実を記録しておく
いいえ除外に当たらない方向。書面・赤枠・通知窓口を整える
- 5
上の事情が揃わず判断が分かれそうな層(副業・開業準備中など)が含まれるか
はいその層には、除外を前提にせず、類型に応じた書面を交付する設計にする
いいえ対象者が実態のある事業者に限られることを、申込み時の確認で裏づける
最終的な当てはめは、個々の取引の事実関係によります。この図は、事実を集めるための順番として使ってください。
この枠組みから読み取れる実務上の含意は、除外の可否を決めるのは契約の「目的」と買い手の「実態」であり、事業者側が規約で宣言する「対象者の限定」ではない、という点です。規約に「本サービスは事業者のみが対象」と書いてあっても、実際に申し込む人が主として個人用に買っているなら、その文言は除外の根拠として心許ないままです。
契約書作成の実務の経験をもとに言えば、「事業者向け」と明記した講座で、実際の申込者を見ると、会社員が副業の準備として申し込んでいる、主婦が趣味の延長で将来の収入を見込んで申し込んでいる、といった層が混ざっていることは珍しくありません。こうした層について、除外が認められるかどうかは、上の問いに沿って一件ずつ事実を拾わなければ判断できません。
名義の三区分と、副業・開業準備中の買い手
書面の設計を考えるときは、申込みの名義を三つに分けると整理しやすくなります。個人(会社員・主婦・学生など)、個人事業主、法人です。ただし、名義の区分は出発点にすぎず、区分がそのまま結論になるわけではありません。
名義の区分ごとの確認と書面設計の考え方
| 名義 | 申込み時に確かめること | 書面設計の考え方 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 個人 | 受講・利用の目的(自分の学びか、事業のためか)。すでに行っている事業の有無 | 除外を前提にしない。取引類型に応じて法定書面・赤枠・通知窓口を整える | 「将来稼ぎたい」という意思だけでは、除外の根拠として弱い |
| 個人事業主 | 開業の届出の有無に限らず、実際に事業を営んでいるか。その事業と講座・サービスの関連。必要な設備の準備 | 実態が確認できた層は除外の方向。確認できない層には書面を交付する | 屋号や開業届の有無は材料の一つで、決め手ではない |
| 法人 | 法人の事業の内容、実際の活動の有無。購入が事業用か、特定の個人の私的な利用か | 実態のある法人が事業のために買う場合は除外の方向 | 名義が法人でも、主として個人用なら原則適用の方向。実態のない法人は適用の可能性が高い |
「除外の方向」「適用の方向」は、逐条解説の考え方に基づく整理で、個別の取引の結論を示すものではありません。
副業の人と開業準備中の人は、とくに判断が割れやすい層です。副業として少額の収入を得ている会社員が、そのための技術を学ぶ講座を買う場合、買い手は利益活動の意思を持っていますが、先に見た解説の整理では、意思だけで直ちに除外とはされません。事業と言える程度の継続性や設備、取引への習熟があるかが問われます。開業準備中の人も、準備の程度(設備の購入、取引先の確保、屋号の使用、開業の届出など)によって、実態は大きく違います。
こうした層を扱うときの現実的な方針は、二つあります。一つは、対象者を実態のある事業者に実際に絞り、その絞り込みを申込み時の確認で裏づける方針です。もう一つは、絞り込まず、副業・開業準備中の人を含む前提で、最初から類型に応じた書面を整える方針です。前者は運用の負担がかかり、確認が形骸化すると意味を失います。後者は書面の負担がかかりますが、除外が否定されたときの影響が小さくなります。
書面の不備があると、クーリング・オフの期間が始まらず、長期間にわたって解除される可能性が残ります。この問題は書面に不備があるとクーリング・オフ期間が始まらないで扱っています。除外が否定された後に初めて書面を整えようとしても、すでに交付済みの契約について、遡って期間を区切ることはできません。この点が、「除外が使えるかもしれないから書面は省く」という設計の弱さです。
副業系のスクールで「事業者として申し込む」という条項を置く場合に、開業前の受講者が消費者に当たるかをどう見るかは、「事業者として申し込む」条項と開業前の受講者が取り上げています。
相談事例に出る「事業者間契約だから解約できない」という型
国民生活センターは、2026年9月16日に「ビジネス講座のトラブルにご注意」という注意喚起を公表しました。AI講座やSNS運用講座など、ビジネス系の講座に関する相談が増えていること、広告や勧誘時の説明と実際の講座内容が異なる相談があること、Web会議サービスを使った勧誘で契約するケースがあり、その場合は特商法の電話勧誘販売に当たる場合があることなどが指摘されています。
事例のなかには、副業の面接のつもりで臨んだところ講座の契約になっていて、解約を申し出ると「事業者間契約だから解約できない」と言われた、というものが含まれています。これは消費者向けの注意喚起ですが、事業者から見れば、「相談の場に出てくる型」の一つとして読めます。この型には、三つの問題が重なっています。
- 勧誘の目的が明示されていない問題です。面接や相談だと思って臨んだ場で契約を勧められる流れは、勧誘に先立つ明示の問題として扱われます(勧誘前の氏名等の明示と再勧誘の禁止)。
- 買い手を事業者と決めつける問題です。買い手が実際には個人の立場で申し込んでいるのに、事業者間と言い切って解約を断ると、除外の判断を誤ったまま対応することになります。
- 解約の申出への対応が、解除を妨げる行為と評価されうる問題です。クーリング・オフが使える状況なのに「使えない」と告げれば、不実のことを告げる行為(訪問販売は6条、電話勧誘販売は21条、特定継続的役務提供は44条)に当たりうるためです。
三つ目について、消費者庁が2025年1月23日に公表した電話勧誘販売の行政処分では、解約の申出に対し「事業主として見ているのでクーリング・オフなどはない」「既払い金は一切返金しない」といった趣旨の説明をして解除を妨げた行為が、21条1項違反とされた事実が示されています。事業者名は書きませんが、この公表は、「事業者だから」という言い方が、そのまま行政処分の理由の一つになりうることを示しています。解除を妨げる行為と、期間が延びる場面の整理はクーリング・オフの妨害(不実告知・威迫)と期間延長で扱っています。
解約の申出を受けたときの社内対応としては、「事業者間契約だから」と答える前に、除外の判断の根拠となる事実(申込み時の確認内容、買い手の事業の実態)が記録されているかを確かめる、という順番が安全側です。根拠となる記録がなければ、除外を理由にした断りは避ける、という社内ルールにしておく方法があります。
相談件数の推移や、事業者が見るべき相談の型の全体像は国民生活センターの相談件数と事例に見るトラブルの型にまとめています。
消費者契約法2条1項との関係:別の法律の別の判断
営業のための契約かどうかという問題は、消費者契約法にもあります。消費者契約法2条1項は、契約の当事者が個人であっても、それが事業としてまたは事業のためのものであれば、「消費者」に含めないと定めています。同法の規定、たとえば不当な免責条項や違約金条項の無効(8条から10条)は、事業者と消費者の間の契約に適用されます。
特商法の除外と消費者契約法の定義は、文言も法律の目的も異なるため、それぞれ別に判断されます。どちらか一方で「事業のため」と整理できたからといって、他方も同じ結論になるとは限りません。また、規約に「消費者契約法は適用されない」と書いたとしても、その適用の有無は法律上の定義で決まるもので、当事者の宣言だけで決まるものではありません。
実務上は、次の組み合わせを意識すると整理しやすくなります。
- 特商法の除外に当たらない可能性がある層には、書面とクーリング・オフの設計を整える。
- 消費者契約法の「消費者」に当たる可能性がある層に対しては、返金や解約の条項が、同法の規定に照らして過度にならないかを点検する。点検の方法は「返金しない」「解約不可」の規約が無効になる場面で扱っています。
- どちらにも当たらないと確信できる層(実態のある事業者が事業のために買う場合)に限って、規約を事業者向けの内容にする。
返金ポリシーの側から、事業者都合の返金と、相手が個人か事業者かで条項の効き方が変わる点を扱った記事として、事業者の都合で提供できないときの返金と、相手が個人か事業者かで変わる解約条項の効き方があります。こちらは返金ポリシーの作り方の側から見た整理で、本記事は特商法の除外の読み方に絞っています。
規約と申込みの画面での直し方
ここまでの整理を、規約と申込みフォームの書き方に落とし込みます。以下は、一般に見られる書き方と、それを整えた書き方の対比です。
書き方の例(一般的な例) 対象者の限定と、特商法・消費者契約法の扱い
対象者の定め
理由表明や保証の一文は、除外の根拠として弱くなりがちです。目的と実態を事実として確認し、記録するほうが、後から根拠として使えます。
解約・返金の定め
理由事業者間であることを理由とする断りは、除外が否定された場合に、法令に反する特約として扱われうる点が問題になります。
特商法・消費者契約法の適用
理由適用の有無は法律の定義で決まります。規約で適用を否定する文は、効力が認められにくいだけでなく、買い手に誤解を与えるおそれがあります。
クーリング・オフの案内
理由一律に対象外と書くと、適用される層に対して不実のことを告げる結果になりかねません。適用の有無を、契約の実態に応じて書面で切り分ける形にします。
次に、申込み時の確認欄に置く条項の例です。全文ではなく、論点に絞った例です。
申込み時の目的・実態の確認(論点ごとの例)
- 申込者は、本申込みの時点で、受講の目的が次のいずれに当たるかを、所定の欄に記入して当方に申告する。(1)すでに営んでいる事業のため (2)事業の開始を具体的に準備しているため (3)事業とは関係のない個人の目的のため
- 前項(1)または(2)を選択した申込者は、その事業の内容および準備の状況(開業の届出の有無、必要な設備の準備の状況を含む。)を、所定の欄に記入する。
- 当方は、前二項の記入内容を、申込みの記録として保存する。記入内容によって、当方が書面を交付し、またはクーリング・オフその他の法令上の取扱いを適用しないことにはならない場合があることを、申込者は了解する。
実態を確認するための条項です。申告の結果だけで除外が確定する書き方にはしていません。最後の項は、申告と法令上の取扱いが別であることを示すためのものです。
講座の広告での効果の言い方が、契約書の「成果は保証しない」という定めと食い違っていないかも、買い手が何を期待して申し込んだかを示す事情として、除外の判断と無関係ではありません。この食い違いの整理は、コーチングの効果の言い方と契約書の成果非保証が扱っています。
申込み時に確かめること、起きがちなこと
除外の判断に必要な事実は、申込みの時点でしか集められないものが多くあります。後から聞き取ろうとしても、解約の申出の場面では、買い手の協力が得られにくくなります。ヒヤリングのときに確かめるのは、次の点です。
確かめる問いと理由除外の判断のために確かめること
受講・購入の目的は、事業のためか、個人の学びや趣味のためか
契約の目的が最初の判断軸だからです。目的を選択式で記入してもらい、記録します。自由記述だけだと、あとから読み取りにくくなります。
すでに事業を営んでいるか。営んでいるなら、その内容と開始の時期
実態のある事業者かどうかを見るためです。開業届の有無は材料の一つですが、実際の活動を示す情報(取引先、売上の有無、屋号の使用など)も合わせて確認します。
開業準備中なら、準備はどこまで進んでいるか
意思だけでは足りず、設備等の準備の状況が判断要素に挙げられているためです。準備の程度が低いなら、除外を前提にしない扱いにします。
申込みの名義と、実際に利用する人は同じか
法人名義で申し込み、利用するのは経営者個人、といった場合に、実質的な買い手を見誤らないためです。
勧誘の場所・手段は何か(会場、通話、Web会議、フォームのみ)
除外が否定されたとき、どの類型の書面が必要になるかが、勧誘の形で決まるためです。類型の判定はオンライン講座・Web会議の勧誘は電話勧誘販売かも参照してください。
申込みの前に、規約・料金・解約条件を示しているか
解約条件を後から知った、という相談の型を避けるためです。示した日時と方法も記録します。
記録は、申込みの画面の保存、申込み内容の控え、案内メールの送信履歴などの形で残します。保存期間は社内で決める項目で、法定の期間を前提にしないでください。
この記事の内容を運用に移すときの点検
- 「事業者向け」と規約に書いたことを、除外の根拠として扱っていないか確認する。
- 申込み時に、目的・事業の内容・準備の状況を、選択式で確認しているか。
- 副業・開業準備中の買い手を含むかどうかを、事業として決めているか。含む前提なら、書面と赤枠を最初から整えているか。
- 解約の申出に対して「事業者間だから」と答える前に、根拠となる記録を確認する手順があるか。
- 返金・解約の条項は、消費者契約法の点検もしているか。
起きがちなこと
実務で起きがちなこと
- 個人事業主向けと銘打った講座で、会社員が副業の準備として申し込んでおり、除外を前提にしていたため書面がない。
- 規約に「事業者間契約のため解約不可」と書き、解約の申出に対してその文言で断った結果、解除を妨げる行為として問題になる。
- 申込み時の確認欄が、「事業者です」にチェックを入れるだけの形で、実態を何も示していない。
- 法人名義の申込みで、実際の利用者は経営者個人の学びのためだった場合に、買い手の実態の確認がない。
- 特商法の除外と消費者契約法の「消費者」の判断を同じものとして扱い、返金の条項の点検を省いている。
- 除外が否定されたときのために書面を整えておく、という設計が、運用の負担を理由に外されている。
以上の整理は、除外の可否を断定するためのものではありません。除外が使えるかどうかは、最終的には個別の事実関係で決まります。事業者として決めておけるのは、確認する事実の範囲、記録の仕方、除外が否定された場合の書面の準備、の三点です。
この記事の出典
- e-Gov法令検索:特定商取引に関する法律(現行は2026年8月12日施行の版)・同施行令・同施行規則(確認日:2026年10月22日):特商法26条1項1号、50条1項1号、消費者契約法2条1項
- 消費者庁「特定商取引法ガイド」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/)の逐条解説(令和7年6月1日時点版)(確認日:2026年10月22日):雑則(26条)、特定継続的役務提供(50条)の解説
- 国民生活センター「ビジネス講座のトラブルにご注意」(2026年9月16日公表)(https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260916_3.html)(確認日:2026年10月22日)
- 消費者庁「特定商取引法違反の事業者に対する行政処分」(2025年1月23日公表、電話勧誘販売)(https://www.caa.go.jp/notice/entry/040837/)(確認日:2026年10月22日)
よくあるご質問
個人事業主を対象にした講座なら、クーリング・オフは対象外と書いてよいですか。
一律に書くのは避けたほうがよい書き方です。26条1項1号と50条1項1号が除外するのは、営業のために又は営業として締結する契約で、判断は契約の目的・内容と買い手の実態から総合的に行われます。個人事業主という名義だけでは決まらず、実質が個人用であれば原則として規定が適用される、というのが逐条解説の考え方です。除外の可否を規約で宣言するのではなく、申込み時の確認と記録で裏づけ、適用される可能性のある層には書面を整えておく形が安全側です。
副業や開業準備中の人が買う場合、除外されますか。
一概には言えません。買い手に利益活動をする意思があっても、それだけで直ちに除外とはされず、取引の種類、利益活動との関連性や目的、必要な設備の準備状況などから、その取引に習熟していると認められるかが検討されます。準備の程度によって結論が分かれうるため、この層を含む前提なら、除外を前提にせず類型に応じた書面を交付する設計が現実的です。
申込み時に「事業者です」というチェックをもらえば、除外の根拠になりますか。
チェックだけでは根拠として弱くなりがちです。解説が見る要素は、目的、事業の実態、設備等の準備、取引への習熟で、本人の申告の有無そのものではありません。目的を選択式で確認し、事業の内容や準備の状況も記入してもらい、記録として保存すると、除外の判断に使える事実が残ります。
特商法の除外に当たれば、消費者契約法も適用されませんか。
同じ結論になるとは限りません。消費者契約法2条1項は、個人であっても事業としてまたは事業のために契約する場合は「消費者」に当たらないとしており、特商法26条とは文言も趣旨も別です。それぞれ別に判断されるため、返金や解約の条項の点検は、消費者契約法の側でも行っておくのが整理しやすい方法です。
解約の申出に「事業者間契約だから解約できない」と答えてもよいですか。
答える前に、除外の根拠となる事実が記録されているかを確認する手順を置くことをお勧めします。クーリング・オフが使える状況で使えないと告げれば、不実のことを告げる行為(6条、21条、44条)に当たりうるためです。実際に、解約の申出に対して事業主として見ているのでクーリング・オフはないと告げた行為が、2025年1月に公表された電話勧誘販売の行政処分で違反の一つとされています。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、勧誘された場所や手段、申込みの方法、役務の内容と期間・金額、購入者の属性によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月22日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 国民生活センター / 裁判所