行政処分の公表事例から学ぶ、書面と勧誘の失敗

特商法の行政処分の公表資料には事業者名が載りますが、事業者が読むべきなのは違反の型です。確認できた十件の公表事例を、書面・解除に関する不実告知・不明示・履行拒否・再勧誘・広告の六つの型に整理し、処分と罰則の条文、点検の順番を示します。

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確認できた公表事例では、違反が一つだけの処分はなく、書面・不実告知・不明示・履行拒否が並んで挙げられています。書面だけを直しても、解約対応の言い方が残れば同じ型の問題が残ります。

このページの要点

  • 処分は指示、二年以内の業務停止命令、役員への業務禁止の三段階。公表も義務づけられています。
  • 違反は書面・解除の不実告知・不明示・履行拒否・再勧誘・広告の六つの型に収まります。
  • 書面の不交付や記載不備にも、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の定めがあります。
  • 契約を結ぶ場面と解約を申し出られた場面は、同じ処分の中で一緒に問題になります。

結論:公表事例は「誰が」ではなく「どの型が」を読む

特定商取引法(以下「特商法」)に基づく行政処分の公表資料には、処分を受けた事業者の名前が載っています。しかし、事業者が自社の運用を点検するために読むべきなのは、名前ではなく、どの場面で、どの条文の義務が果たされなかったのかという違反の型です。確認できた公表事例を並べると、違反は次の六つの型に収まります。

  • 契約の内容を明らかにする書面を交付していない、または記載事項が欠けている(書面の型)
  • 解約や返金について、事実と違うことを告げて解除を妨げている(解除に関する不実告知の型)
  • 勧誘の冒頭で、事業者名や勧誘目的を告げていない(不明示の型)
  • 契約後の債務(役務の提供や返金)を履行しない、または不当に遅らせている(履行拒否・遅延の型)
  • 断った相手に勧誘を続けるなど、迷惑を覚えさせる仕方で勧誘している(再勧誘・迷惑勧誘の型)
  • 通信販売の広告や申込み画面で、実際より優良・有利だと誤認させている(広告・画面の型)

どれも「契約書の文章がまずかった」という話ではありません。書面を交付するかどうか、解約の問い合わせにどう答えるか、通話の最初に何を言うか、断られたあとに連絡を止めるかといった、日々の運用の積み重ねで起きています。この記事では、六つの型を条文と公表事例の記載で整理し、自社の書面と勧誘を点検する順番を示します。

本稿が扱うのは、確認できた範囲の十件の公表事例です。同じ日に同じ内容で公表された複数の事業者の処分は、一件として数えています。全国で公表された処分の全件ではありません。事業者名・代表者名・所在地は書きません。個別の公表資料の本文まで確認できたのは二件で、残る八件は処分一覧の記載(取引類型、処分内容、違反行為、適用条項、処分日、処分行政庁)の範囲にとどめ、その旨を明記します。

六つの型を一覧で見る

違反の六つの型と、関係する取引類型・条文

型起きる場面主な条文の例詳しい対策
書面の型契約書面の不交付、記載事項の欠け、虚偽の記載訪問販売4条・5条、電話勧誘販売18条・19条、特定継続的役務提供42条、訪問購入58条の7・58条の8記事:契約書面・概要書面の記載事項
解除に関する不実告知の型解約の問い合わせへの答え、勧誘時の説明訪問販売6条、電話勧誘販売21条、特定継続的役務提供44条記事:クーリング・オフの妨害と期間延長
不明示の型勧誘の最初の一言、通話の冒頭訪問販売3条、電話勧誘販売16条、訪問購入58条の5記事:勧誘前の氏名等の明示
履行拒否・遅延の型契約後の役務提供、解除後の返金訪問販売7条1項1号、電話勧誘販売22条1項1号、特定継続的役務提供46条1項1号記事:クーリング・オフ後の清算
再勧誘・迷惑勧誘の型断られたあとの連絡、長時間の勧誘訪問販売3条の2第2項、電話勧誘販売17条、特定継続的役務提供46条1項4号・施行規則106条記事:勧誘前の氏名等の明示
広告・画面の型通信販売の広告、申込み確認画面通信販売12条、12条の6第2項記事:広告・LPの表示

条文は特定商取引に関する法律(2026年10月22日時点の現行版)と同法施行規則で確認した番号です。

行政処分と罰則の仕組み:指示・業務停止命令・業務禁止

特商法の行政処分には、取引類型ごとに、重さの異なる三つの段階があります。条文の骨格を先に押さえておくと、公表資料の「指示」「業務停止命令」「業務禁止」という言葉を読み分けられます。

指示:是正と再発防止を求める

主務大臣(消費者庁、経済産業局、都道府県が権限を行使します)は、事業者が勧誘や書面の義務に違反し、取引の公正と購入者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、違反の是正や購入者の利益を守るための措置などを指示できます。たとえば訪問販売では7条、電話勧誘販売では22条、特定継続的役務提供では46条、通信販売では14条、訪問購入では58条の12が、この指示の根拠です。指示をしたときは、その旨を公表しなければならないと定められています(訪問販売7条2項、電話勧誘販売22条2項など)。

業務停止命令:二年以内の期間を限って業務を止める

違反によって購入者の利益が著しく害されるおそれがあるとき、または指示に従わないときは、二年以内の期間を限って業務の全部または一部の停止を命じることができます(訪問販売8条1項、電話勧誘販売23条1項、特定継続的役務提供47条1項、訪問購入58条の13、通信販売15条)。公表資料では「勧誘、申込受付及び契約締結」のように、停止の範囲が書かれます。命令をしたときも公表が義務づけられています。

業務禁止:役員などが新たに同じ業務を始めることを止める

業務停止命令を出す場合に、命令の理由となった事実と、その人が負っていた責任の程度を考えて、役員や使用人に対し、停止と同じ期間、同じ範囲の業務を新たに始めること(その業務をする法人の役員になることを含みます)の禁止を命じることができます(訪問販売8条の2、電話勧誘販売23条の2、特定継続的役務提供47条の2、通信販売15条の2)。会社だけが止まっても、人が別の会社で同じ事業を続けるのを防ぐ仕組みです。

取引類型ごとの処分の根拠条文

取引類型指示業務停止命令業務禁止
訪問販売7条8条8条の2
電話勧誘販売22条23条23条の2
特定継続的役務提供46条47条47条の2
通信販売14条15条15条の2
訪問購入58条の1258条の1358条の13の2

条文はe-Gov法令検索(特定商取引に関する法律)で確認。業務停止命令の「二年以内」は各条の本文にあります。

罰則:書面の不交付は6月以下の拘禁刑、不実告知は3年以下の拘禁刑

行政処分とは別に、条文には刑事罰も置かれています。事業者が見落としやすいのは、書面に関する違反にも罰則があることです。

特商法の主な罰則(70条〜74条)

条対象となる違反の例罰則
70条1号訪問販売6条・電話勧誘販売21条・特定継続的役務提供44条などの不実告知・威迫3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)
70条2号通信販売の特定申込みを受ける際の表示をしない、不実の表示をする(12条の6第1項)3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)
70条3号業務停止命令・業務禁止命令に違反した場合など3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)
71条1号訪問販売4条・5条、電話勧誘販売18条・19条、特定継続的役務提供42条などの書面を交付せず、または記載事項の欠ける書面・虚偽記載のある書面を交付6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)
71条2号指示に違反した場合6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)
72条通信販売などの誇大広告(12条)、12条の6第2項の誤認表示など100万円以下の罰金
74条法人の従業者などが違反したときの法人への両罰規定70条1号・2号は1億円以下、70条3号は3億円以下の罰金刑。71条・72条は各本条の罰金刑

条文はe-Gov法令検索(特定商取引に関する法律)で確認。罰則の表記は2025年6月施行の拘禁刑に合わせています。

法人については74条の両罰規定があり、従業者が業務に関して違反したときは、行為をした本人に加えて法人にも罰金刑が科されます。営業担当者個人の言動の問題として片づけられない理由です。

公表事例から取り出す六つの違反の型

ここからは、六つの型を一つずつ見ます。各型について、何が問題とされたのかを一般化して書き、事業者の側で直す点を示します。

型1:書面の不交付と記載の欠け

契約の内容を明らかにする書面は、取引類型ごとに交付の時期と記載事項が決まっています。公表事例では、電話勧誘販売で契約内容を明らかにする書面(19条1項)を交付していなかった例があり、訪問販売でも契約書面(5条1項)の記載に不備があったと一覧に記されたものが複数あります。訪問購入では書面の交付義務(58条の8)が違反条項に挙がっています。

この型の怖さは、処分だけでなく、クーリング・オフ期間が始まらないという民事上の効果にも及ぶことです。消費者庁の逐条解説は、書面を交付していない場合や重要な事項が欠ける書面の場合には、8日の起算日が到来せず、解除できる期間が続くとしています。この点は書面に不備があるとクーリング・オフ期間が始まらないで整理しています。記載事項の確認は契約書面・概要書面の記載事項とよくある漏れの表が使えます。

型2:解除に関する不実告知

不実告知の禁止は、勧誘のときだけでなく、申込みの撤回や解除を妨げるための告知にも及びます。訪問販売の6条、電話勧誘販売の21条、特定継続的役務提供の44条は、いずれも「勧誘をするに際し、又は…解除を妨げるため」という構造です。禁止の対象には、解除に関する事項(クーリング・オフに関する事項を含みます)が含まれます。

公表事例では、電話勧誘販売の処分で、解約の申出に対して事業主として扱うのでクーリング・オフはないという趣旨や、既払い金は返さないという趣旨を告げたことが違反として挙げられています。特定継続的役務提供の処分では、役務提供契約を解除すれば関連商品の販売契約も解除できるのに、関連商品のクーリング・オフはできない、通信販売なので契約回数が終わるまで解約できないと告げたことが挙げられています。この型の処分は、罰則も重く、70条1号の3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象です。対策はクーリング・オフの妨害(不実告知・威迫)と期間延長にまとめています。

型3:勧誘目的・氏名等の不明示

勧誘に先立ち、事業者の名称、勧誘の目的、商品や役務の種類を相手に明らかにする義務があります。訪問販売は3条、電話勧誘販売は16条、訪問購入は58条の5です。電話勧誘販売の16条は、勧誘を行う者の氏名と、その電話が契約の勧誘のためのものであることも告げるよう求めています。

公表事例では、電話勧誘販売で、勧誘に先立って事業者名を告げず、別の話題の説明だけをしていた例が挙がっています。訪問販売でも、勧誘目的等の不明示(3条)が違反として記されたものがあります。オンライン講座でWeb会議や通話を使う導線は、この型の事前チェックが特に欠かせません(オンライン講座・Web会議の勧誘は電話勧誘販売か)。

型4:債務の履行拒否・遅延

契約に基づく債務、あるいは契約の解除によって生じる債務の全部または一部を、履行しない、または不当に遅らせることは、指示の対象行為です(訪問販売7条1項1号、電話勧誘販売22条1項1号、特定継続的役務提供46条1項1号)。役務を提供しない、返金を先延ばしにする、といった行為が当たります。

訪問販売の公表事例には、債務の履行拒否・遅延が記されたものが複数あります。うち一件の一覧の記載には、債務を履行させるため、相手を貸金業者の営業所等へ連行する行為(7条1項5号、施行規則18条6号ロ)も挙げられています。解約後の返金を、自社の都合で後ろに倒さないこと。返金の流れはクーリング・オフ後の清算と代金返還で整理しています。

型5:再勧誘・迷惑勧誘

契約を締結しない旨の意思を表示した相手に、同じ契約の勧誘を続けてはなりません(訪問販売3条の2第2項、電話勧誘販売17条)。訪問購入では、勧誘の要請をしていない人への勧誘や、断った人への勧誘が58条の6で禁じられています。特定継続的役務提供では、46条1項4号と施行規則106条1号が、迷惑を覚えさせるような仕方での勧誘を指示の対象としています。

公表事例では、特定継続的役務提供の処分で、契約を断る意思を示した相手に執ように勧誘したことが挙げられています。無料体験の会場で、帰りたいと言う相手を長時間引き止めて契約を迫る、といった運用がこの型にあたり得ます。

型6:通信販売の誇大広告と誤認表示

通信販売では、広告の誇大表示が禁じられ(12条)、申込みの確認画面などで、申込みになることや分量・価格・支払時期などについて誤認させる表示が禁じられています(12条の6第2項)。公表事例には、優良誤認・有利誤認の表示と、特定申込みの手続が表示される画面での誤認表示が違反として記されたものがあります。

通信販売の広告やLPは、営業の文章としてではなく、法令が表示事項を定めた「表示」として整えます。必要な表示事項と文言の整え方は広告・LPの「いつでも解約OK」とクーリング・オフ表示が扱います。

個別の公表資料まで確認できた二つの処分の流れ

十件のうち、公表資料の本文まで確認できたのは二件です。ここでは事業者名や商品名を伏せて、事実の流れと違反の型のつながりを見ます。

電話勧誘販売の処分(消費者庁、2025年1月23日公表)

消費者庁は、二つの会社に対し、電話勧誘販売について、勧誘・申込受付・契約締結を3か月間停止するよう命じました(23条1項)。あわせて、再発防止策の実施やコンプライアンス体制の構築などを指示し(22条1項)、それぞれの代表者に対しては、同じ3か月間、同じ範囲の業務を新たに始めることの禁止を命じています(23条の2第1項)。

認定された違反の流れは、次のようなものです。

  • 勧誘の入口はSNSの投稿で、そこからメッセージ機能の通話リクエストを通じて電話勧誘に進みました。
  • 勧誘に先立って事業者名を告げず、別の話題の説明だけをしていました(16条)。
  • 契約の内容を明らかにする書面を交付していませんでした(19条1項)。契約は規約へのチェックで成立させており、内容の説明を伴うものではありませんでした。
  • 解約の申出に対して、事業主として扱うのでクーリング・オフは使えない、既払い金は返さないという趣旨のことを告げ、解除を妨げました(21条1項)。

ここから読み取れるのは、通話ツールを使った勧誘も電話勧誘販売の規律の中で評価されること、そして「事業主だから」という言い切りが解除を妨げる不実告知として扱われることです。この論点は事業者間契約でクーリング・オフが対象外になる場面でも整理しています。

特定継続的役務提供の処分(消費者庁、2026年1月30日公表)

消費者庁は、特定継続的役務提供について、勧誘・申込受付・契約締結を3か月間停止するよう命じ(47条1項)、あわせて指示(46条1項)と、代表者への業務禁止(47条の2)を行いました。認定された違反の型は二つです。

  • 役務提供契約をクーリング・オフ等で解除すれば、関連商品の販売契約も解除できるのに、関連商品(定期購入)のクーリング・オフはできない、通信販売なので契約回数が終わるまで解約できないと告げました(44条1項)。
  • 契約を断る意思を示した人に対し、執ように勧誘しました(46条1項4号、施行規則106条1号)。

体験の来店から契約までの流れの中で、定期購入の商品を契約の条件のように告げる勧誘があったことも、公表資料に記されています。関連商品の扱いはクーリング・オフ後の清算と代金返還・関連商品の扱いで、特定継続的役務の要件は特定継続的役務提供の7業種と期間・金額の要件で扱っています。

二つの処分に共通するのは、契約を結ぶ場面の問題と、解約を申し出られた場面の問題が同時に起きていることです。入口の勧誘と、出口の解約対応を別々の部署が担当していると、どちらか一方だけを整えて安心しがちです。

一覧の記載から読み取れる八件と、読み取れないこと

残る八件は、消費者庁の特商法ガイド「執行状況」の一覧(2025年度分と2026年度分)に記載された内容の確認にとどまります。個別の公表資料の本文は取得できていないため、一覧に書かれている範囲を超える事実は書きません。

一覧の記載によると(取引類型・処分日・処分内容・違反の型)

取引類型処分日(一覧の記載)処分内容の種類一覧に記された違反の型と条項
訪問販売(その1)2026年9月17日(関東経済産業局)業務停止命令、指示、役員への業務禁止契約書面の記載不備(5条1項)、解除に関する事項の不実告知(6条1項5号)、債務の履行拒否(7条1項1号)、債務を履行させるための貸金業者の営業所等への連行(7条1項5号、施行規則18条6号ロ)
訪問販売(その2)2026年9月8日(長崎県)業務停止命令、指示契約書面の不備記載(5条1項)、債務の履行拒否・遅延(7条1項1号)
訪問販売(その3)2026年10月19日(埼玉県)業務停止命令、指示、役員への業務禁止勧誘目的等の不明示(3条)、契約を必要とする事情に関する不実告知(6条1項6号)
訪問購入2026年8月4日(九州経済産業局)業務停止命令、指示、役員への業務禁止氏名等の明示(58条の5)、勧誘の要請のない者・断った者への勧誘など(58条の6)、書面の交付(58条の8)、物品の引渡しの拒絶に関する告知(58条の9)
通信販売(その1)2026年3月23日(消費者庁)業務停止命令、指示、役員への業務禁止誇大広告(優良誤認・有利誤認、12条)、特定申込みの手続が表示される画面での誤認表示(12条の6第2項)
通信販売(その2)2026年3月26日(消費者庁)業務停止命令、指示、役員への業務禁止誇大広告(優良誤認・有利誤認、12条)、特定申込みの手続が表示される画面での誤認表示(12条の6第2項)
訪問販売(その4)2026年3月31日(東京都)業務停止命令、指示、役員への業務禁止勧誘目的等の不明示(3条)、契約書面の記載不備(5条1項)、解除に関する事項の不実告知(6条1項5号)、判断に影響を及ぼす事項の不実告知(6条1項7号)
訪問販売(その5)2026年3月30日(東京都)業務停止命令、指示、役員への業務禁止契約書面の記載不備(5条1項・2項)、債務の履行拒否(7条1項1号)

出典:消費者庁「特定商取引法ガイド」執行状況(2025年度・2026年度の各一覧)。確認日:2026年10月22日。個別の公表資料の本文は未確認のため、この表の外の事実は書きません。

この表から読み取れるのは、書面・不実告知・不明示・履行拒否が、一つの処分の中で複数並ぶのが普通だということです。十件の中で違反の型が一つだけという処分はありませんでした。書面の不備だけを直しても、解約対応の言い方が残っていれば、同じ型の問題は解消されません。

反対に、この一覧からは読み取れないことが三つあります。第一に、処分の期間の長短が何で決まったかです。一覧には期間の記載がありますが、本稿では個別資料で確認できた二件以外の期間には触れません。第二に、端緒となった消費者からの申出の内容です。第三に、各事業者の事業内容です。これらを推測で補わないことが、公表事例を使うときの基本です。

よくある失敗と直し方

契約書作成の実務の経験をもとに、処分の型につながる失敗を、書き方の対比で整理します。いずれも、特定の事業者の運用ではなく、よく見られる書き方です。

書き方の例(一般的な例) 処分の型につながる書き方

解約の問い合わせへの案内

よくある書き方当社のサービスは事業者向けのため、クーリング・オフや返金には対応していません。
整えた書き方契約の相手方や取引の実態によって、法律上の取扱いが変わります。契約の内容と、お申込み時の状況を確認したうえで、適用される制度をご案内します。

理由購入者が事業者名義であっても、契約が営業のためのものか、実質は個人用かは総合的に判断されます。一律の拒否は、解除を妨げる不実告知の型に重なります。

書面を兼ねる申込みフォーム

よくある書き方申込みボタンの前に規約へのチェックを求め、申込完了画面とメールで済ませる。
整えた書き方法定書面として交付する書面を別に用意し、記載事項と赤枠・赤字・8ポイント以上の要件を確認したうえで、交付日を記録する。

理由チェックボックスへの同意は、契約書面の交付に代わりません。電子的に交付する場合も、承諾の取り方に定めがあります。

勧誘の最初の一言

よくある書き方お時間をいただき、ありがとうございます。まず、今回の課題をうかがいます。
整えた書き方事業者の名称、担当者の氏名、契約の勧誘が目的であること、勧めるサービスの種類を、最初に告げる。

理由勧誘に先立つ明示が欠けると、不明示の型に当たります。ヒアリングの名目で始めても、契約を勧めるなら、最初に告げる必要があります。

断られたあとの連絡

よくある書き方ご検討状況を確認するため、数日おきにメッセージを送る。
整えた書き方契約しない意思が示されたら、その契約についての勧誘をやめ、連絡先リストからも除外する。

理由契約しない旨の意思を示した人への勧誘は禁止です。社内の自動配信が止まらない運用は、再勧誘の型になります。

返金の期限

よくある書き方お客様都合による返金は、手続完了後、事務処理の都合で別途ご連絡します。
整えた書き方返金すべき金銭は、決済方法ごとの手順を社内で決め、速やかに返還する。

理由契約後の債務を不当に遅らせることは、履行遅延の型として指示の対象です。

自社の書面と勧誘を点検する順番と、社内で確かめること

点検は、契約を結ぶ順番に沿って行うと漏れにくくなります。次の判定の順番は、六つの型を、勧誘の入口から契約後の対応まで並べ替えたものです。「いいえ」が一つでもあれば、その段で止まって直します。

自社の点検の順番

  1. 1

    勧誘の最初に、事業者の名称・担当者の氏名・勧誘が目的であること・サービスの種類を告げているか(通話・対面・Web会議のすべて)

    はい次の問いへ

    いいえ不明示の型。冒頭の告知項目を決めて、全担当者に共通にする(勧誘前の明示の記事へ)

  2. 2

    契約の内容を明らかにする法定書面を、契約の類型に合った時期と方法で交付し、交付日を記録しているか

    はい次の問いへ

    いいえ書面の型。記載事項の表で不足を洗い出し、交付の記録を残す(契約書面・概要書面の記事へ)

  3. 3

    解約や返金の問い合わせに、条文の内容と同じ案内をしているか(「事業主だから」「通信販売だから」と言い切っていないか)

    はい次の問いへ

    いいえ解除に関する不実告知の型。案内の項目を決め、言い切りの表現を禁止語として共有する(妨害行為の記事へ)

  4. 4

    契約しないと言われた相手への連絡を、その契約について止めているか(自動配信を含む)

    はい次の問いへ

    いいえ再勧誘の型。除外リストと、停止の確認手順を決める

  5. 5

    通信販売の広告や申込み画面の表示が、実際の条件(価格・分量・支払時期・解約条件)と一致しているか

    はい次の問いへ

    いいえ広告・画面の型。LP・表記・規約・最終確認画面の文言を一致させる(広告・LPの記事へ)

  6. 6

    役務の提供や解除後の返金を、決めた期限で処理し、遅れた場合の連絡先が決まっているか

    はい点検は完了。記録の残し方はチェックリストの記事へ

    いいえ履行拒否・遅延の型。返金の担当者と手順を決める(解除後の清算の記事へ)

六つの問いのうち、書面と解約対応は、一度の整備で何年も使えるものではありません。取引の導線を変えたときに、順番にもう一度当てはめてください。

確かめること

確かめる問いと理由処分の型に照らして確かめること

  1. 勧誘は、対面・通話・Web会議・メッセージのどの手段で行っていますか。担当者は誰ですか。

    勧誘の手段によって、取引類型(訪問販売か電話勧誘販売か)と、冒頭に告げる項目が決まります。担当者が複数いると、言い方がそろわない原因になります。

  2. 法定書面を、いつ、どの方法で、誰が交付していますか。交付日を記録していますか。

    書面の型の核心は、交付していない、または交付日を証明できないことです。交付日はクーリング・オフ期間の起算点にも関わります。

  3. 解約や返金の問い合わせは、誰が受け、どう答えていますか。社内に案内の項目はありますか。

    不実告知は、営業担当者の「ひとこと」で起きます。窓口が分散していると、案内が人によって異なります。

  4. 契約しないと言った人の連絡先は、どこで管理していますか。自動配信は止まりますか。

    再勧誘の型は、悪意がなくても自動配信の設定で起きます。停止の確認がなければ防げません。

  5. 広告・LP・申込み画面・規約・特商法に基づく表記で、解約と返金の条件は同じ文言ですか。

    条件が食い違うと、広告・画面の型の問題になり、解約時の案内でも矛盾が出ます。

  6. 返金の処理は、決済方法ごとに誰が、どの順序で行いますか。

    返金の遅れは、履行遅延の型に重なります。カードや決済代行会社の手順を知っている人を決めておく必要があります。

個別の事業者の運用を推測するものではなく、点検のための問いです。

条文例:論点ごとの書き方

書面そのものの全文はここには載せません。社内規程や契約書に置く場合の、論点ごとの書き方の例を示します。

条文例

解約・返金の問い合わせに対する案内の方針(社内規程の例)

  1. 解約、契約の申込みの撤回、返金に関する問い合わせを受けたときは、担当者は、当該契約の取引の類型、書面の交付の有無及び交付日、契約の相手方の名義その他の事実を確認したうえで、法令の定めに従って、取り得る手続及びその期限を案内する。
  2. 担当者は、契約の相手方が事業者名義であること、又は取引が通信販売の形式であることのみを理由として、法令上の解除その他の手続の対象にならない旨を断定して告げてはならない。
  3. 前項の確認を経ずに案内した場合には、担当者は、その内容を責任者に報告し、訂正の案内をする。

社内規程や運用マニュアルに置く例です。契約の相手方に向けた条項ではありません。

条文例

勧誘に先立つ告知の項目(社内規程の例)

  1. 担当者は、契約の締結について勧誘をするときは、勧誘に先立ち、次の事項を相手方に告げる。(1) 当社の名称 (2) 勧誘を行う担当者の氏名 (3) 契約の勧誘を目的とする旨 (4) 勧誘の対象となる商品、権利又は役務の種類
  2. 担当者は、相手方が契約を締結しない旨の意思を表示したときは、当該契約の締結についての勧誘を直ちにやめ、その旨を連絡先の管理簿に記録する。

電話勧誘販売では氏名・名称、担当者の氏名、商品等の種類、契約勧誘のための電話であることを告げる義務があります(16条)。告知項目は取引類型に合わせてください。

公表資料の読み方:事業者名より先に見る欄

公表資料や一覧を読むときは、次の順に見ると、自社の点検に結びつけやすくなります。

  1. 取引類型:訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、通信販売、訪問購入のどれか。自社の導線に近いものから読みます。
  2. 処分の種類:指示だけか、業務停止命令を伴うか、役員への業務禁止まで含むか。
  3. 違反行為と適用条項:どの条文の義務が果たされなかったか。上の六つの型のどれに当たるか。
  4. 勧誘と契約の流れ:個別の公表資料に流れが書かれている場合は、入口から出口までのどこで違反が生じたか。

公表資料は、行政庁が認定した違反の内容を簡潔にまとめたものです。そこに書かれていない事情を推測で補ったり、処分を受けた事業者の事業内容と自社を重ねて不安になったりする必要はありません。見るべきは、自社の運用に同じ型の穴がないかです。国民生活センターの相談件数から見た型は国民生活センターの相談件数と事例に見るトラブルの型、運用の記録はクーリング・オフ対応のチェックリストと記録の残し方で扱います。

業種サイトの記事で確かめる

書面や勧誘の細部は、業種によって異なります。個人向けの運動サービスの書類の全体はパーソナルジム・整体院の開業準備と書類一式、エステの広告の表現はエステの広告表示、物販の表記はネットショップの特定商取引法に基づく表記、表記の不備が指摘されたときの処分の流れは特商法表記の不備が指摘されたとき・よくある質問、営業代行や外部の担当者に勧誘を任せる場面は営業代行・クロージングと特定商取引法で、それぞれの事情を詳しく扱っています。

起きがちなことと、出典

処分の型につながる、起きがちなこと

  • 書面を交付しているつもりで、交付日の記録がない。申込完了のメールは送っているが、法定の記載事項は満たしていない。
  • 営業担当者が、解約の相談に「事業主として契約しているから」「通信販売だから」と答えてしまい、社内で共有されていない。
  • ヒアリングの名目で始めた通話や面談で、最初に勧誘目的を告げていない。
  • 断られたあとも、自動配信のメッセージが止まらず、再勧誘になっている。
  • 広告やLPでは「いつでも解約できる」と書き、規約や申込み画面では異なる条件を書いている。
  • 返金の担当者が決まっておらず、問い合わせから返金までに日数がかかり、履行の遅延と受け取られる。
  • 書面の不備だけを直し、解約対応の言い方や再勧誘の運用を直さないまま、同じ型の指摘を受ける。

この記事の出典

  • e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」(3条、3条の2、4条、5条、6条、7条、8条、8条の2、12条、12条の6、14条、15条、15条の2、16条、17条、18条、19条、21条、22条、23条、23条の2、42条、44条、46条、47条、47条の2、58条の5〜58条の9、58条の12、58条の13、70条〜74条)(確認日:2026年10月22日)
  • e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律施行規則」(18条、106条)(確認日:2026年10月22日)
  • 消費者庁「特定商取引法ガイド」執行状況(2026年度・2025年度)(確認日:2026年10月22日)
  • 消費者庁の報道発表(電話勧誘販売に係る行政処分、2025年1月23日公表)https://www.caa.go.jp/notice/entry/040837/(確認日:2026年10月22日)
  • 消費者庁の報道発表(特定継続的役務提供に係る行政処分、2026年1月30日公表)https://www.caa.go.jp/notice/entry/044947/(確認日:2026年10月22日)
  • 関東経済産業局(2026年9月17日公表)公表ページ、長崎県(2026年9月8日公表)公表ページ、埼玉県(2026年10月19日公表)公表資料、九州経済産業局(2026年8月4日公表)公表ページ(確認日:2026年10月22日。一覧の記載の範囲で参照)
  • 消費者庁「特定商取引法ガイド」逐条解説(令和7年6月1日時点版)(書面を交付しない場合などの8日の起算日の考え方)(確認日:2026年10月22日)

よくあるご質問

処分を受けた事業者の名前は、どこで確認できますか。

公表資料と一覧は、消費者庁の特商法ガイド(執行状況)や、各行政庁の公表ページで公開されています。本稿は名前を挙げず、公表主体、処分日(一覧の記載による)、処分の種類、違反の条項で示しています。読む目的は特定の事業者を知ることではなく、同じ型の穴が自社にないかを点検することです。

指示と業務停止命令は、どちらが重いのですか。

業務停止命令のほうが重い処分です。指示は、違反の是正や再発防止のための措置を求めるもので、取引の公正と購入者の利益が害されるおそれがあるときに出されます。業務停止命令は、利益が著しく害されるおそれがあるとき、または指示に従わないときに、二年以内の期間を限って業務の全部または一部の停止を命じるものです。役員などへの業務禁止は、停止命令とあわせて出されることがあります。

従業員が数人の小さな事業でも、処分の対象になりますか。

条文の宛先は「販売業者又は役務提供事業者」で、規模による区別はありません。特商法の取引類型に当たる取引を行っていれば、個人事業でも小規模な会社でも、同じ義務を負います。義務を負うかどうかは、取引の類型と、買う側が営業のために契約するのかといった実態で決まります。

書面に不備があるだけで、行政処分や罰則の対象になりますか。

書面を交付しない、または記載事項が欠ける書面や虚偽の記載のある書面を交付すると、訪問販売4条・5条、電話勧誘販売18条・19条、特定継続的役務提供42条などの違反となり、71条1号の罰則(6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)の対象です。行政処分の公表事例でも、書面の不備は他の違反と並んで挙げられています。ただし、一覧の記載からは、書面の不備だけで処分に至ったのかまでは分かりません。

業務停止命令の期間は、どのくらいになるのですか。

条文上は、二年以内の期間を限って命じることができるとされています。個別の事案の期間は、公表資料に書かれています。本稿で個別資料まで確認できた二件は、いずれも3か月でした。他の事例の期間は、一覧の記載だけでは理由まで分からないため、本稿では取り上げていません。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、勧誘された場所や手段、申込みの方法、役務の内容と期間・金額、購入者の属性によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月22日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 国民生活センター / 裁判所

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