このページの要点
- 自宅等で申込みを受け、または契約を結ぶ工事・清掃・駆除は訪問販売(特商法2条1項1号)。申込書面(4条)と契約書面(5条)、赤枠の中の赤字(規則6条・7条)が必要。
- 「請求した者」の除外(26条6項1号)は、契約を住居で結ぶ明確な意思がある場合に限る。訪問を事業者から申し出た場合や、点検・見積り依頼から別契約に進んだ場合は含まれない。
- 工事を期間内に始めると、クーリング・オフでは対価を請求できず、原状回復を無償で請求される(9条5項・7項)。緊急を理由に権利を放棄させる条項は9条8項で無効。
- 書面に不備があると期間は進行しない。書面の記載事項、起算日、通知の方法(書面または電磁的記録)を、規則5条〜7条に合わせて点検する。
結論:自宅で契約する訪問サービスは訪問販売。契約書面と赤枠を渡し、着工は期間の経過後を基本にする
このページの結論
- 誰に当てはまるか
- 住宅リフォーム、設備の交換、墓石工事、ハウスクリーニング、害虫駆除、保守点検、出張トレーニングなど、お客様の自宅等で契約を結ぶ(または訪問した先で申込みを受ける)事業者。
- 何をすべきか
- 申込みを受けたときの申込書面と、契約を結んだときの契約書面を渡し、書面にクーリング・オフの事項を赤枠の中に赤字で書く。工事やサービスの開始時期と、代金の支払期限を、期間の設計と合わせる。
- 期限
- 書面を受け取った日から起算して8日を経過するまで、購入者は書面または電磁的記録でクーリング・オフができる(特商法9条1項)。書面に不備があると、この期間は進行しない。
自宅などに訪問して契約する訪問サービスは、工事や役務であっても、特商法の訪問販売に当たります。訪問販売というと、物を売って回る営業を思い浮かべがちですが、条文は「商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約」を対象にしており、リフォーム工事も清掃も含まれます。[1]
このため、訪問サービスの事業者が守る書類は、民事の契約書だけではありません。特商法4条の申込書面、5条の契約書面、規則で決まった赤枠と赤字の表示があり、これらが欠けると、クーリング・オフの期間が進みません。どの場合に適用除外になるかを含めて、条文の順に整理します。
結論の表:訪問サービス(リフォーム・清掃)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 当てはまる取引の類型 | |
| 当てはまらない場合の条件 |
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| 必要な書類(要るもの・要らないもの) |
共通して確認するもの
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| クーリング・オフの期間 |
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| 中途解約の有無と上限 |
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工事を8日以内に始めるときは、クーリング・オフがあった場合の原状回復の無償請求(9条7項)があることを前提にします。 診断の分かれ道は診断の結果、取引の類型ごとの一覧は7類型の早見表にあります。
訪問サービスの契約で渡す書面と、その中身
| 書面 | いつ渡すか | 主な記載事項 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 申込書面 | 申込みを受けたとき、直ちに(その場で契約を結んだ場合は不要) | 役務の種類、対価、支払の時期・方法、提供時期、クーリング・オフに関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号、担当者の氏名など | 特商法4条1項、同法施行規則5条 |
| 契約書面 | 契約を結んだとき、遅滞なく(申込みを受けてすぐに契約したときは直ちに) | 申込書面と同じ事項で、契約の内容を明らかにしたもの | 特商法5条1項 |
| 契約と同時に全部を履行し、代金を全部受け取ったときの書面 | その場で直ちに | 役務の種類、対価、解除に関する事項など。3,000円未満の現金取引は適用除外 | 特商法5条2項、26条5項3号、同法施行令17条 |
| クーリング・オフの赤枠 | 上の書面の中 | 書面の内容を十分に読むべき旨と、クーリング・オフの事項を赤枠の中に赤字で。8ポイント以上の文字 | 同法施行規則6条2項・3項、7条6項 |
電子データで交付するには、購入者の承諾が必要です(特商法4条2項・5条3項)。承諾の取り方は承諾書面のページで扱っています。
判定の根拠:訪問販売の定義、請求した者の除外、政令の適用除外
営業所等以外の場所での契約は訪問販売
訪問販売の定義は、特商法2条1項に置かれています。1号は、営業所等以外の場所で申込みを受けるか契約を結ぶ販売や役務の提供です。2号は、営業所等での取引でも、呼び止めて同行させた人など政令の方法で誘引した人(特定顧客)が相手のものです。[1]
「販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供」
通常、訪問サービスの導線は次の四つに分かれます。①自宅等を訪問して申込み・契約を結ぶ場合は訪問販売、②購入者が自宅での契約を求めて呼んだ場合は、次に述べる適用除外に当たるかが争点、③購入者が自分から店舗や事務所に来て契約する場合は特商法の勧誘類型の外(消費者契約法は残る)、④法人の建物や事業のための工事は、営業のための契約として適用除外になる可能性が高い、です。診断では、診断の結果(訪問先での申込み)と同(購入者が自分から請求)に対応しています。
購入者が自宅での契約を請求した場合の除外(26条6項1号)
特商法26条6項1号は、その人が自分の住居で売買契約や役務提供契約の申込みをすること、あるいは契約を結ぶよう請求した場合の訪問販売について、4条から10条までを適用除外としています。[1]
「第四条から第十条までの規定は、次の訪問販売については、適用しない。」
この「請求した者」の範囲は、消費者庁が狭く説明しています。通達は、問合せや資料請求の際に事業者が訪問を申し出て相手が承諾しても、請求にはならないとし、事業者から電話をしてアポイントを取って訪問する場合も該当しないとしています。また、水漏れ修理の訪問の最中にリフォームを勧誘した場合や、見積り依頼の訪問でその場で別の契約を結んだ場合も、適用除外の外です。[6]
消費者庁のQ&Aは、「請求した者」といえるには、契約を住居で結ぶ明確な意思が必要だという考え方を示し、チラシに表示された額と実際の請求額が大きく違う例は該当しない、外出先で依頼を受けた場合は住居でないので対象外、と整理しています。点検や修理だけを頼まれて訪問したのに、その場で別の工事契約を結ぶ運用は、適用除外にならないと見ておくのが安全です。[5]
政令で定める適用除外(26条3項〜5項、6項2号)
26条には、このほかに政令で定める役務や商品を対象にした適用除外があります。リフォーム、清掃、駆除、点検は、その列挙に入るでしょうか。結論から言うと、入りません。次の表で、政令の内容を確認します。[1][3][2]
26条の政令による適用除外と、訪問サービスへの当てはめ
| 条文 | 除外されるもの | 政令・省令の内容 | 訪問サービスへの当てはめ |
|---|---|---|---|
| 26条3項 | 4条・5条・9条(と電話勧誘販売の規定) | 契約の締結後直ちにその全部が履行されるのが通例の役務で、呼び止めて営業所等に同行させた者が相手のもの。飲食店での飲食、あん摩・マッサージ・指圧、カラオケボックスの利用などと貨客定期航路(令13条、規則67条) | リフォーム・清掃・駆除は列挙にない |
| 26条4項1号 | 9条(クーリング・オフ) | 自動車(二輪を除く)の販売と、一定の条件の自動車の貸与(令14条) | 当たらない |
| 26条4項2号 | 9条 | 電気、ガス(最終保障供給)、熱供給の役務の提供と、葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供(令15条) | 蜂の駆除や水漏れ修理などの緊急の作業は列挙にない |
| 26条5項3号 | 9条 | 5条2項の場合(契約時に全部を履行し代金も全額受領)で、総額が3,000円に満たないとき(令17条) | 少額の現金取引のみ |
| 26条6項2号 | 4条〜10条 | 店舗事業者の定期巡回での注文受け、直近1年内に取引のある顧客への訪問、事業所での販売など(令18条各号) | 新規の顧客への営業訪問は当たらない |
表の政令の内容は、2026年10月23日に取得した現行の条文で確認しています。
表の26条4項2号が、緊急対応の整理で重要です。「蜂の巣の駆除や水漏れの修理は緊急だから、クーリング・オフの対象外にできる」と考えられがちですが、政令が指定するのは、電気・ガス・熱供給と、葬式の祭壇の貸与などです(令15条)。駆除や修理は列挙されていないため、緊急という理由だけで適用除外にはなりません。[1][3]
その他の、契約の相手が営業のために契約する場合(26条1項1号)は、名義でなく実質で判断されます。たとえば、法人が購入者でも、営業のためでない契約なら適用除外にならないことは、裁判例の考え方です(詳しくは適用除外の裁判例)。法人の建物の工事では、建物の使い方や発注の目的を確認します。
よくある誤り→正しいやり方
訪問サービスの契約書や規約で、見直しが必要になりやすい点を、頻度の高い順に並べます。
1 「訪問販売に該当する場合は法令に従う」という一般条項だけで、法定の書面がない
契約書に「本契約が特定商取引法の訪問販売に該当する場合、同法に従い解除できる」とだけ書き、別建ての契約書面(特商法4条・5条)と赤枠を作らない例があります。必要なのは条項ではなく、書面の記載事項(役務の種類、対価、支払の時期・方法、提供時期、解除に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号、担当者の氏名など)を満たした書面です。[1][2]
正しいやり方は、民事の契約書とは別に、特商法の書面を用意するか、民事の契約書に法定の事項を網羅して書面を兼ねることです。兼ねる場合は、規則5条の項目が全部あるか、赤枠が書面の中にあるか、一覧で確認します。
2 クーリング・オフの起算日・期間・方法の記載が法に合っていない
多い誤記は、「契約日から8日以内」と書く、通知を「書面のみ」とする、原状回復の無償請求や、不実告知・威迫を受けたときの期間の延長を書かない、の4つです。起算日は、契約書面(5条1項・2項)を受領した日(先に4条の書面を受領していればその日)です。通知は書面または電磁的記録で、通知を発した時に効力が生じます(9条1項・2項)。[1]
書面に不備があると、期間が進行しないとされます。通達は、クーリング・オフができる旨の記載がない書面は法定書面と認められず、重要事項が欠けていると8日の起算日が到来しない、としています。[6]
3 代金の支払期限が、クーリング・オフの期間より先に来る
「契約から7日以内に全額支払う」と定めると、購入者がクーリング・オフを検討している間に、支払の期限が来ます。期限内の支払を求めること自体が違法とは限りませんが、解除の通知を受けたら、受領した金銭を速やかに返還しなければなりません(9条6項)。支払わなければ大変なことになる、と告げて行使を思いとどまらせれば、威迫に当たりえます(6条3項)。[1]
4 着工前に期間を待つ運用がない
契約の直後に着工する運用は、クーリング・オフが行われたときの負担が大きくなります。通知があった場合、事業者は損害賠償や違約金を請求できず(9条3項)、すでに提供した役務の対価も請求できません(9条5項)。さらに、工事で土地や建物の現状が変わったときは、購入者は原状回復に必要な措置を無償で請求できます(9条7項)。[1]
工事の着手時期を決めるときは、①期間の経過後に着工する、②購入者の希望で期間内に着工するが、上の負担を前提に費用と段取りを組む、のどちらかを選び、後者では購入者の希望を書面に残します。ただし、書面に「着工の希望」を書いても、クーリング・オフの権利を放棄させる効果はありません。
5 「お問い合わせを起点としたので訪問販売ではない」という確認条項
契約書に「本契約は買主の求めにより締結するもので訪問販売に該当しない」と確認させる条項は、26条6項1号の判断を左右しません。請求の有無は、契約を住居で結ぶ意思を明確に示したかという実態で決まります。条項の文言だけでは適用除外にならず、かえって、書面を渡さなかった事実が残ります。[1][6][5]
6 緊急を理由に、クーリング・オフの権利を放棄させる条項
「緊急の作業のため、クーリング・オフを放棄する」と署名させる条項は、9条8項により、購入者に不利な特約として無効です。緊急の作業を適用除外にできるのは、政令が指定する役務に限られ(26条4項2号、令15条)、その場合も、書面に、契約の申込みの撤回または解除を行うことができない旨を記載する必要があります(規則7条3項)。[1][3][2]
7 営業委託先・下請の体制が書かれていない
点検や訪問営業を、委託先や協力業者に任せる事業者は少なくありません。書面の交付義務(4条・5条)は、販売業者または役務提供事業者、つまり契約の当事者となる事業者に課されています。委託先が勧誘する場合、氏名等の明示(3条)、契約しない意思を示した者への勧誘の禁止(3条の2第2項)、不実告知の禁止(6条)を、委託先に守らせる体制を、契約書に書きます。[1]
8 書面の体裁の不備
契約書面に、事業者の代表者の氏名、担当者の氏名、電話番号の欄がない、表紙に前の取引先の広告文が残っている、文字が小さい、といった不備も見られます。規則5条は、事業者の氏名または名称、住所、電話番号、法人の代表者の氏名、担当者の氏名、契約の年月日などを記載事項に挙げ、規則6条3項は8ポイント以上の文字を求めます。[2]
9 民事の解除条項と、クーリング・オフの優先関係が書かれていない
「乙の都合による解除の場合、実費を精算する」という民事の条項は、クーリング・オフが行われたときには使えません。9条3項により、損害賠償や違約金は請求できず、9条8項により、これに反する不利な特約は無効です。契約書には、クーリング・オフの規定が民事の解除条項に優先することを、赤枠の事項と整合する形で書きます。[1]
書き方の例(一般的な例) クーリング・オフの記載(役務・工事)
起算日
理由起算日は書面を受領した日で、方法は書面または電磁的記録。契約日と書くと、法定の起算日と合わない。
費用の負担
理由9条5項・7項。規則7条1項三の内容を記載する。
書類の作り方の要点
書類は、①申込書面と契約書面、②その中のクーリング・オフの赤枠、③電子データで交付する場合の承諾、④民事の契約書・約款、の4つに分けて考えます。
契約書面(5条)と、クーリング・オフの記載
書面のクーリング・オフの記載は、規則7条1項の表で、内容が決まっています。役務の提供契約については、書面を受領した日から8日を経過するまでは書面または電磁的記録で解除できること、事業者の不実告知や威迫があったときの延長、通知を発した時に効力が生じること、損害賠償や違約金を請求できないこと、すでに役務が提供されても対価を請求できないこと、受領した金銭を速やかに全額返還すること、工事で現状が変わったときの原状回復の無償請求、を記載します。[2]
「…書面又は電磁的記録…によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除…を行うことができる。 ただし、申込者等が第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合…においては、この限りでない。」
「役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。」
「前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。」
赤枠の中の書き方は、承認された見本を元にします。書面をよく読むべき旨を赤枠の中に赤字で書き(規則6条2項)、クーリング・オフに関する事項も赤枠の中に赤字で書きます(規則7条6項)。[2]赤枠の範囲、白黒印刷の注意、編集用と交付用の二版の考え方は、赤枠の一覧と赤枠の書き方にまとめています。
表示の見本訪問サービスの契約書面の赤枠(役務・工事)の要点
《この書面(契約書面)の内容を十分にお読みください。》
第○条(クーリング・オフ)
1. この契約が特定商取引法の訪問販売に該当する場合、購入者(甲)は、この契約書面を受け取った日から8日以内であれば、書面(ハガキ、封書等)又は電磁的記録(電子メール等)により、無条件で契約の申込みの撤回又は契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます。クーリング・オフは、通知を発信した時(郵便の場合は、郵便消印の日付など)に効力が生じます。理由を示す必要はありません。
2. クーリング・オフをした場合、当方(乙)は、損害賠償又は違約金の支払を請求することはありません。すでに役務を提供した場合でも、その対価の支払を請求することはありません。また、すでに受領した金銭は、速やかに全額を返還します。
3. 工事によって土地又は建物その他の工作物の現状が変更された場合、購入者(甲)は、当方(乙)に対し、元の状態に戻すために必要な措置を無償で請求することができます。
(4.以下は、妨害があった場合の再度のクーリング・オフ、通知の宛先、不利な特約の無効などです。ここでは省略します)
第1項と第2項は、赤枠のページの見本(電話勧誘販売の例)と同じ書き方にそろえ、トリガーの文言だけを訪問販売に置き換えています。第3項は工事の場合に加わる原状回復の項で、規則7条1項の表の事項(工事に関するもの)に対応します。この見本は項目を網羅したものではないため、実際の書面では表の事項が漏れなく入っているかを条文と照らして確認します。
着工と支払の条項(論点ごとの条文例)
工事の着手と、クーリング・オフとの関係
- 当社は、購入者が契約書面を受領した日から起算して8日を経過した後に、工事に着手します。
- 購入者が前項の期間内の着手を書面で希望した場合、当社は着手に先立ち、クーリング・オフが行われたときは、工事の対価の請求ができず、現状変更に対する原状回復を無償で行うことを説明します。
- 代金の支払期限は、契約書面を受領した日から起算して8日を経過した日以後とします。
着手を期間経過後にする方針の条文の骨組みです。購入者が期間内の着手を希望する場合でも、クーリング・オフの権利は残ります。希望を書面に残すのは、説明を行った記録のためです。
電子データで契約書面を交付する場合は、購入者の承諾が前提です(特商法4条2項・5条3項)。承諾の取り方、説明すべき事項、機器の確認は、書面の電子交付に整理しています。書面の記載事項は契約書面の事項、書面が不備のときの期間は書面の不備、解除後の清算は解除後の清算にあります。
分割払いやクレジットを利用する契約は、割賦販売法の書面と抗弁の接続が別に問題になります(分割払い・カード)。
関係する判例・処分事例・相談事例
訪問販売の書面の不備や、請求した者の除外が問題になった裁判例は、判決当時の条文によるものを含みます。現行の条番号に直して読み、判断が分かれる点は、そのまま並べます。裁判例の整理は書面不備の裁判例にまとめています。
裁判例リフォーム工事のクーリング・オフ:書面不備と請求した者の主張[7]
- 裁判所・判決日
- 大阪高等裁判所 令和6年3月14日
- 事件番号
- 令和5年(ネ)第4号(原審:大阪地方裁判所 令和2年(ワ)第7462号)
- 確認した場所と範囲
- 裁判所「裁判例検索」https://www.courts.go.jp/ の判決詳細ページと判決書(確認の範囲:判決全文。確認日:2026年10月23日)
事案の要旨住宅のリフォーム工事を複数の契約で結んだ施主が、工事後に生じた別の事故をきっかけに、訪問販売のクーリング・オフを通知し、支払済みの申込金の返還を求めた。工事会社は、①交付した書面は法定書面だ、②施主の依頼で訪問したので請求した者の適用除外だ、③クーリング・オフの行使は権利の濫用だ、と争った。
判断の要点裁判所は、契約書の一部にクーリング・オフの記載があっても、赤字で書かれていない、役務を提供した場合でも対価を請求できないことや原状回復の無償請求が書かれていない、注文書には記載がない、といった不備があるため法定書面に当たらず、期間は進行していないと判断した。請求した者の主張は、具体性と裏付けが乏しく、契約の意思が固まっていなかったとして認めず、権利の濫用も否定した。
事業者の実務への示唆赤字の表示と、効果の記載(対価の請求ができないこと、原状回復の無償請求)の欠落が、期間が進まない原因になりうる。見積書や注文書を兼ねる書面にも、クーリング・オフの記載が必要である。「お客様から呼ばれた」という主張には証拠が必要で、契約の意思が固まっていない段階の依頼は認められにくい。この判決は、当裁判所の判断である(上級審の結果は未確認)。事案の性質が特殊で、射程を広げすぎない。
裁判例訪問販売での連続した契約と、書面の記載事項[8]
- 裁判所・判決日
- 京都地方裁判所 平成17年5月25日
- 事件番号
- 平成16年(ワ)第3331号
- 確認した場所と範囲
- 裁判所「裁判例検索」https://www.courts.go.jp/ の判決詳細ページと判決書(確認の範囲:判決全文。確認日:2026年10月23日)
事案の要旨自宅を訪問した業者から、水道管の洗浄、活水装置・浄水器の売買と取付け、床下換気工事を相次いで契約した高齢の消費者が、クーリング・オフと取消しで、支払った代金の返還を求めた。
判断の要点裁判所は、交付された契約書について、事業者の住所・代表者名・担当者名の欠落、商品の特定の不足、支払方法が「ローン」とあるだけであること、クーリング・オフの要件と効果の記載の欠落などを指摘し、いずれも当時の特商法5条の書面に当たらないと判断した。そのため期間は進行しておらず、解除は有効として、支払済みの代金の返還を認めた。
事業者の実務への示唆複数の契約を連続して結ぶ場合は、契約ごとに書面の記載事項が必要になる。「契約書があれば足りる」のではなく、記載事項の一つ一つが問われる。判決当時の条文による判断で、現行の規則5条〜7条に読み替えて使う。
裁判例書面の欠落の程度が期間の進行に影響するかが争われた事案(訪問販売の旧法)[9]
- 裁判所・判決日
- 山口地方裁判所 平成15年3月31日
- 事件番号
- 平成12年(ワ)第86号、同第304号
- 確認した場所と範囲
- 裁判所「裁判例検索」https://www.courts.go.jp/ の判決詳細ページと判決書(確認の範囲:判決全文。確認日:2026年10月23日)
事案の要旨布団の販売とモニター契約を組み合わせた商法で、購入者が信販会社の立替払いの支払を拒み、クーリング・オフなどを主張した。
判断の要点裁判所は、店舗で申込みをした購入者は訪問販売のクーリング・オフの対象外としたうえで、商品名や価格など購入者が正確に認識できる記載があれば、多少の欠落があっても法定書面としての効力は左右されない、と判断して、書面の記載事項が一つでも欠ければ法定書面でないという購入者側の主張を採らなかった。複数の書面を合わせて判断し、書面の交付が認められなかった1名についてだけ、クーリング・オフを認めた。
事業者の実務への示唆先の大阪高裁の判断より、書面の欠落に対する見方が緩やかである。時代と事案が違うため、「軽微な不備なら大丈夫」とは読まず、判断が分かれうる論点として、すべての記載事項を満たす前提で書面を作る。この判決は、判決当時の旧訪問販売法・特商法による判断である。
参考として、京都地裁令和6年1月19日判決は、ウェブサイトに安い基本料金を表示して水回りの修理を呼び、訪問後に高額な工事を契約させた事案で、サイトの表示と請求額の乖離などを総合して不法行為を認め、代金相当額の賠償を命じました。クーリング・オフは予備的な請求で、判断されていません。したがって、「来訪を要請された場合はクーリング・オフができない」ことの根拠にはなりません。[10]
行政処分では、2026年9月に関東経済産業局が、水回りの給排水管工事と害虫駆除を行う事業者に、業務停止命令(9か月)などを出しました。消費者庁の執行状況の一覧には、契約書面の記載不備(特商法5条1項)、解除に関する事項の不実告知(6条1項5号)、債務の一部の履行拒否(7条1項1号)などが挙げられています。[13]東京都が2026年3月30日に行った処分(業務停止命令9か月ほか)も、一覧によれば、契約書面の記載不備(5条1項・2項)と債務の履行拒否が違反の型です。[14]
どちらも、書面の記載不備が中心にあります。書面を整え、解除に関する事項を正確に告げる、という基本が、処分を避ける最小限の備えです。
相談の数字では、訪問販売によるリフォーム工事の相談が、2023年度の11,879件から、2024年度の9,839件、2025年度の5,544件へと減る一方、点検商法の相談は、2023年度の12,550件から、2024年度の19,249件、2025年度の19,696件へと増えています。[11]訪問販売全体の相談は、2025年度に78,392件でした(PIO-NETの件数。経由相談を除く)。[12]
事例には、突然訪問して屋根の損傷を指摘し、無料点検のあとで工事を契約させた例、近所で工事をしていると言って訪問したが実際には工事がなかった例、メーカー保証中なのに高額な保守契約を結ばせた例があります。事業者側が防ぐには、訪問の目的(工事や点検の販売)を最初に告げ(3条)、契約の前に書面を渡し、不安をあおる説明をしないことです。[11]
ヒヤリングで確かめること
確かめる問いと理由書類を決める前に、まず次を確認します
受注の経路は、広告、紹介、飛び込み、点検の依頼のどれか。
請求した者の判断と、氏名等の明示(3条)に関わります。
契約を結ぶ場所は、お客様の自宅、店舗、現場のどれか。
営業所等以外なら訪問販売です。
最初に連絡したのは、事業者とお客様のどちらか。
事業者から訪問を申し出たのなら、請求した者になりません。
お客様の依頼は、契約を結ぶことか、点検や見積りだけか。
点検や見積りだけの依頼は、契約の請求ではありません。
金額と支払時期、着工の時期はいつか。
期間の設計(支払期限、着工)に関わります。
買い手は個人か、法人か、個人事業主か。建物は生活用か、事業用か。
営業のための契約かは、実質で判断します。
勧誘や施工を委託先・下請に任せているか。誰が契約の当事者か。
書面の交付義務は契約の当事者にあります。
分割払いやクレジットを使うか。
割賦販売法の書面と抗弁の接続が別に必要です。
業種サイトの詳しい記事
工事・清掃の業種サイトには、この論点を扱う詳しい記事があります。
- 建設・工事請負:リフォームのクーリング・オフ
- 建設・工事請負:設備の取付けと外注
- 建設・工事請負:墓石工事
- 建設・工事請負:浄化槽工事
- 建設・工事請負:契約不適合責任
- 民泊・清掃:ハウスクリーニングの規約
- 民泊・清掃:エアコン清掃の規約
- 民泊・清掃:依頼のキャンセル
取引の見分け方の全体はクーリング・オフが使える取引の見分け方、類型ごとの一覧は7類型の早見表にあります。
根拠・出典
本文の[1][2]などの番号は、この一覧の番号に対応しています。
- 条文特定商取引に関する法律(特商法)2条1項・3条・3条の2・4条・5条・6条・9条・9条の2・10条・26条1項〜6項(現行版の施行日2026年8月12日) https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057確認日:2026年10月23日
- 条文特定商取引に関する法律施行規則5条・6条・7条・22条・67条 https://laws.e-gov.go.jp/law/351M50000400089確認日:2026年10月23日
- 条文特定商取引に関する法律施行令13条・14条・15条・17条・18条 https://laws.e-gov.go.jp/law/351CO0000000295確認日:2026年10月23日
- 消費者庁消費者庁「特定商取引法ガイド」訪問販売のページ https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/doortodoorsales/確認日:2026年10月23日
- 消費者庁消費者庁「特定商取引法ガイド」訪問販売等の適用除外に関するQ&A(Q1 営業のための契約、Q2・Q3 住居での契約を請求した者) https://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/exclusion.html確認日:2026年10月23日
- 消費者庁通達「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日付)第2章第2節 3(2)・(3)(PDF 10〜12頁。書面の記載事項と交付時期)、第5節 1 法26条6項1号(PDF 60頁) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/specified_commercial_transactions/assets/consumer_transaction_cms101_2401119_01.pdf確認日:2026年10月23日
- 裁判例大阪高等裁判所 令和6年3月14日判決(令和5年(ネ)第4号、本訴損害賠償等・反訴請負代金等請求控訴事件。原審:大阪地方裁判所 令和2年(ワ)第7462号)。裁判所「裁判例検索」で判決全文を確認。掲載誌は裁判所サイトに記載なし https://www.courts.go.jp/hanrei/92978/detail4/index.html確認日:2026年10月23日
- 裁判例京都地方裁判所 平成17年5月25日判決(平成16年(ワ)第3331号、不当利得返還等請求事件)。裁判所「裁判例検索」で判決全文を確認。判決当時の条文による https://www.courts.go.jp/hanrei/6686/detail4/index.html確認日:2026年10月23日
- 裁判例山口地方裁判所 平成15年3月31日判決(平成12年(ワ)第86号、同第304号、損害賠償請求、立替金請求事件)。裁判所「裁判例検索」で判決全文を確認。判決当時の条文による https://www.courts.go.jp/hanrei/7998/detail4/index.html確認日:2026年10月23日
- 裁判例京都地方裁判所 令和6年1月19日判決(令和3年(ワ)第2352号、損害賠償等請求事件)。裁判所「裁判例検索」で判決全文を確認(クーリング・オフは判断されていない) https://www.courts.go.jp/hanrei/92778/detail4/index.html確認日:2026年10月23日
- 国民生活センター国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」(各種相談の件数や傾向。2026年7月31日更新。リフォーム工事:2023年度11,879件、2024年度9,839件、2025年度5,544件。点検商法:2023年度12,550件、2024年度19,249件、2025年度19,696件) https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/reformtenken.html確認日:2026年10月23日
- 国民生活センター国民生活センター「2025年度 全国の消費生活相談の状況-PIO-NETより-」(2026年8月5日公表。訪問販売78,392件、経由相談を除く) https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20260805_1.html確認日:2026年10月23日
- 消費者庁関東経済産業局の訪問販売に関する行政処分(処分日2026年9月17日、公表同月18日。給排水管工事・害虫駆除。業務停止命令9か月。違反の型は消費者庁の執行状況一覧の記載による) https://www.caa.go.jp/notice/entry/047504/確認日:2026年10月23日
- その他東京都の訪問販売に関する行政処分(処分日2026年3月30日。業務停止命令9か月ほか。違反の型は消費者庁の執行状況一覧の記載による) https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/torihiki/shobun/shobun260331.html確認日:2026年10月23日
よくあるご質問
お客様の依頼で自宅に伺った場合は、クーリング・オフの対象外ですか。
契約を自宅で結ぶことをお客様が明確に請求した場合に限り、適用除外になります(特商法26条6項1号)。点検や見積りだけの依頼から別の契約に進んだ場合や、事業者が訪問を申し出て承諾を得た場合は、請求にならないと通達は説明しています。
工事を契約の当日に始めてもよいですか。
禁止されてはいません。ただし、クーリング・オフが行われると、工事の対価は請求できず、工事で現状が変わっていれば原状回復を無償で請求されます(特商法9条5項・7項)。着工は期間の経過後を基本にし、期間内に着工する場合は、この負担を前提に段取りと費用を組みます。
蜂の駆除のような緊急の作業は、クーリング・オフの対象外にできますか。
政令が適用除外として指定するのは、電気・ガス・熱供給の役務と、葬式のための祭壇の貸与などです(特商法26条4項2号、施行令15条)。駆除や修理は列挙されておらず、緊急を理由に権利を放棄させる条項は9条8項で無効です。
クーリング・オフの通知を、書面だけに限ることはできますか。
書面または電磁的記録で行えるのが法律の定めで(特商法9条1項)、これに反する不利な特約は無効です(同条8項)。事業者が受け付ける方法を合理的な範囲で書面に特定して示すことは、消費者庁が妨げないとしています。
営業を委託先に任せている場合、書面は誰が出しますか。
書面の交付義務は、販売業者または役務提供事業者、つまり契約の当事者となる事業者にあります(特商法4条・5条)。委託先の勧誘で、氏名等の明示や不実告知の禁止が守られる体制を、契約と運用で整えます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、勧誘された場所や手段、申込みの方法、役務の内容と期間・金額、購入者の属性によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で2026年10月23日時点のものを確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 国民生活センター / 裁判所